もっとも、現段階でAIが担う役割は限定的で、翻訳精度の向上やプロパガンダの生成など、既存の工作を補う手段にとどまっている。だが中国国産AIに、ChatGPTと同じく倫理的懸念に基づく拒否機能が備わっている保証はない。
なぜOpenAIは、工作の全容を把握することができたのか。真相解明のヒントを残したのは、皮肉にも工作員自身だった。
工作員の正体は、中国の法執行当局に所属する人物だった。この人物はChatGPTをまるで業務日誌のように使い、「サイバー特殊作戦」の進捗を日々書き込んでいた。
CNNの報道によると、工作員は海外在住の中国人反体制派を標的とした弾圧の詳細を、ChatGPT上に克明に記録していたという。SNSやウェブサイトへの投稿用コンテンツは別のツールで生成していたが、どの標的にどんな工作を仕掛けたかという活動記録はすべてChatGPTに残していた。
OpenAIの脅威情報チームが異常な利用パターンを検知したことで、工作目的での利用が発覚。同社は当該アカウントを停止した。
虚偽のスキャンダルで追い詰める
日誌に記録されていた手口は執拗を極める。
英ITニュースサイトのレジスターが詳報した事例では、活動家のフイ・ボー氏に対し数千件の虚偽通報をXに送りつけた上、本人の外見を模した偽アカウントを数十個作成していた。OpenAIの報告書によれば、2025年11月29日時点でボー氏のXアカウントは実際に、利用制限の対象になったという。
ほか、反体制派3人を性的スキャンダルに陥れる偽情報キャンペーンも展開し、海外掲示板RedditやYouTubeなど多数のプラットフォームに拡散させていた。反体制派のジー・リージャン氏の偽の死亡記事と墓石の写真を作成し、ネット上に大量にばらまいた記録まで残っていた。
こうした秘密作戦をAIに逐一記録した結果、OpenAIの監視網に全容をつかまれた。工作員にとって最大の誤算だった。
工作の手口はまだある。CNNが伝えた事例では、工作員はアメリカの移民当局の職員になりすまし、アメリカ在住の中国人反体制派に、「公的な発言が法律に違反している」と警告を送りつけていた。
さらには、アメリカの郡裁判所の文書を偽造し、標的のSNSアカウントを強制削除させようとする工作も確認されている。正規の公的機関や司法機関を装い、海外に逃れた反体制派を中国本土にいながらにして追い詰める、組織的な手口だという。
工作に「潤沢なリソース」を投入
OpenAIはこうした一連の活動を「超国家的弾圧」であると位置づけた。レジスターが取り上げた同社の報告書で、情報・調査チーム主任研究員ベン・ニムモ氏は、「これが中国の現代的な越境弾圧の実態だ。中国共産党の批判者を、あらゆる手段で、世界中で同時に打撃を与えようとするものだ」と厳しく批判した。
工作は、「潤沢なリソースを持ち、綿密に計画されている」と同氏は指摘し、国内外を問わず共産党を批判する者が標的になっていると警告している。日本に居住する我々も決して例外ではない。
報告書はさらに、今回の活動が「スパムフラージュ」と呼ばれる中国発の影響工作と共通点があると分析している。インスタグラムやフェイスブックを運営する米メタ社は2023年8月、スパムフラージュが中国の法執行機関に関連する人物により実施されていることを突き止めている。

