勝ち組出版社にはマンガがある

こんなことがあった。私が週刊現代編集長の時だから、1990年代半ばごろだった。当時は年2回、優れた実績をあげた編集部に「社長賞」が贈られた。

その頃は、現代も好調で、毎週のように実売85%以上をクリアしていた。某年の暮れの社長賞に現代とマガジン編集部が選ばれた。

社長から手渡された賞金はズッシリと重かった。編集部に戻って、編集部員たちを集めてこういった。

「今回の賞金はすごいぞ! 横にした封筒が立ってる」

封筒にいっぱいの一万円札
写真=iStock.com/Asobinin
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正確な金額は失念したが、200万円か300万円だったと記憶している。そのカネで編集部員、取材記者たち総勢約100人で温泉に行って、地元の芸者衆も呼びドンチャン騒ぎした。

その後、私は編集長を辞したが、あれほどの額の社長賞を現代がもらったという話は以後、聞いたことはない。だが、マガジン編集部は毎年もらい続けていたのであろう。

1998年以降、出版の売り上げは急速な右肩下がりになる中、マンガだけは順調に推移し、今では講談社、小学館、集英社などの大手出版社は、マンガの売り上げが社を支えているといってもいいだろう。

私が編集長を務めた週刊現代は部数が激減し、隔週刊誌になり、休刊一歩手前である。一方、マガジンを始めとしたマンガ編集部はますます隆盛を誇り、私がいた講談社だけではなく、小学館、そのグループである集英社は、総合出版社ではなく、大マンガ出版社として、出版界の頂点に君臨している。

担当編集への暴行事件

今回、小学館の「マンガワン」問題を文春、新潮、SNSで読みながら、思い出したことがある。1983年に起きた、銀座の高級クラブ「S」で起きた梶原一騎氏の担当編集者暴行事件である。

斎藤貴男氏の『「あしたのジョー」と梶原一騎の奇跡』(朝日文庫)によれば、矢口高雄氏の「釣りキチ三平」の連載終了記念のパーティーが東京・赤坂プリンスホテルで行われた日、梶原氏は、マガジン編集長、担当編集者と数軒をはしごし、6丁目のSへ入った。

夜も更け、日付も変わろうかという頃、梶原氏と担当編集者が口論を始めたという。

そして「てめえ、生意気だ!」。梶原氏は編集者の胸倉を掴み、右手で顔を殴りつけた。椅子ごと倒れたところに蹴りを入れた。編集者は顔面切創で全治1カ月の重傷を負ったのである。

だが、件の編集者は翌日、梶原氏に電話を入れて詫びたという。

この編集者は私の先輩で、剣道の有段者。顔も図体も梶原氏に引けを取らなかった。

私も含めて社の多くの人間が梶原氏の暴力に怒り、社として抗議すべきだ、暴行罪で訴えろとなった。だが、件の先輩編集者は、酒席を共にした時、私がしつこく聞いても、この件に関しては何もいわず、沈黙を通した。実に男らしい理想的なマンガ編集者だった。

しかし、この事件から1カ月経った5月25日、梶原一騎こと高森朝樹氏は警視庁捜査4課と愛宕署に暴行と傷害の容疑で逮捕されたのである。クラブSでの暴行だけでなく、いくつかの脅迫事件、「アントニオ猪木監禁事件」などの容疑も明るみに出た。