「日本と密接な関係にある他国」とは

それでは、現状でホルムズ海峡における機雷敷設や船舶への攻撃は、存立危機事態に該当するのだろうか。結論から言えば、それは難しいだろうというのが筆者の考えだ。

これにはいくつか理由があるが、中でも重要なのは「日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生し得ないという点だ。これは、平和安全法制が国会で議論されていた際に見落とされていた論点と言って良いだろう。

そもそも、ホルムズ海峡における機雷敷設が存立危機事態に該当し得るための大前提は、日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、その一環として機雷が敷設されることだ。

日本と密接な関係にある他国とは、「外部からの武力攻撃に対して共通の危険として対処しようという共通の関心を持ち、我が国と共同して対処しようとする意思を表明する国」を指している。

そして、平和安全法制が議論されていた当時の国会論戦では、政府側も野党側も、「日本と密接な関係にある他国との間の武力紛争の最中に、ある国がその国を攻撃する目的で機雷を敷設する」という前提の上で舌戦を繰り広げていた節がある。

民間船舶への攻撃は「武力攻撃」なのか

たとえば、今回イランが明確にアメリカに対する直接攻撃の一環として機雷を敷設したのであれば、これは問題とならなかった。しかし、実際にはイランは半ば無差別攻撃に近い状態で機雷を敷設し、また自爆型無人機を飛ばしている。

そして、国際法上は民間船舶への攻撃に関して、基本的にその船が掲げている旗の国、すなわち旗国に向けられたものと見なされる。つまり、今回の事例では、イランが武力攻撃を行っている対象は被害船舶の旗国ということになる。

さらに、タンカーなど外洋を航行する大型の民間船舶の場合、運航コストや税制優遇の観点から規制の緩いリベリアやパナマ、マーシャル諸島などを旗国とする、いわゆる便宜置籍船が主流であるため、これらの国々が「日本と密接な関係にある他国」に当たるとは思えない。

また、仮にそこをクリアしたとしても、民間船舶への攻撃が自衛権行使の引き金となる武力攻撃に当たるためには、当該攻撃を行った国が明らかであり、かつ攻撃国がその船舶(より正確にはその旗国)を意図的に狙っていたことが、国際法上の要件として求められる。

つまり、そもそも今回のイランによる措置はホルムズ海峡付近における航行の自由や通航制度に対する違反にはなり得るものの、武力攻撃とまでは言えない可能性があり、かつ被害国の性質も相まって、存立危機事態の認定は極めて困難ということになる。

LNG(液化天然ガス)タンカー
写真=iStock.com/Suphanat Khumsap
民間船舶への攻撃は「存立危機事態」にあたらない(※写真はイメージです)