顔の印象はどこまで人に影響を与えるのか。顔研究の第一人者である山口真美氏は「6〜8カ月の乳児ですら、大人を表情で判断している。人から信頼されたいなら『信頼性の高い表情』をつくるとよい」という――。

※本稿は、山口真美『美人はそれほど得しない? ルッキズムの科学』(ハヤカワ新書)の一部を再編集したものです。

マイクを手にする選挙活動をする政治家
写真=iStock.com/tsuyoshi_kinjyo
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第一印象だけで選挙結果は予測できるのか

政治と顔にまつわる話として、アメリカのプリンストン大学のアレクサンダー・トドロフたちが、顔で選挙の結果が決まることを科学的に示した実験があります。

研究は用意周到に計画され、2006年の上院議員と州知事選挙に合わせて行われました。実験は、当選確実とされた候補者の2人の顔を100ミリ秒という短時間で並べて見せて、「どちらが有能か」を学生に判断させるものです。

実験では、候補者の政治信条を知らない、選挙区以外の地域出身の学生を選び、選挙前に行われました。つまり、事前情報や先入観は一切なしの1秒にも満たない第一印象から、選挙の結果が予測できるかを調べたのです。

この実験の結果、大学生たちが一瞬で判断した「有能さ」の判断から、70%の確率で選挙の当落を予測できることがわかりました。同じ実験は異なる国の候補者を使って何度か行われましたが、ほぼ同様の結果が再現されています。

厳正に判断されているはずの選挙が、顔で決まるという証拠が示されたのは衝撃的です。しかも、それは自国とは異なる文化を持つ国の顔でも通用するのです。政策が問われるべき選挙にまさか「顔」が介入するとは、誰もが予想もしなかったことでした。しげしげと観察するのではなく、ほんの一瞬の見た目の判断である第一印象こそが肝だったのです。

これは人の印象に判断が左右されるという決定的な証拠です。

顔写真だけでの判断は危険

トドロフの実験の重大なポイントは、事前情報と考える余裕を与えないという点にあります。逆にいえば、事前の情報があって考える時間があると、第一印象は効かないということでもあります。考える余裕さえ作れば、自分の頭で判断を作り上げることができるのです。

もう1つはマイナーポイントですが、この実験での判断の情報源が顔写真だけだったということも心に留めておくべきです。第一印象は、実際に一緒に過ごしてみたり、生の演説を聞いたり、討論会の映像でその人の振る舞いを見たりしているうちに変わるのが現実です。初対面では近寄りがたいと思った人が、話してみたら意外に気さくだった、などといったことはよくあるでしょう。

第一印象とのギャップが激しいほど、本音に近い印象は心に残ります。そんなことから、日常的には、それほど強烈に第一印象に振り回されることはないと思われます。逆にいえば、顔写真だけの判断は危険ということになるでしょう。

選挙の例は極端でしたが、第一印象による読み取りが生存に直結することもあります。たとえば言葉も通じない見知らぬ土地に一人降り立ったとき、道行くたくさんの人々の中から、誰を選んで助けを求めたらよいでしょうか。その判断は見た目の第一印象なしにはありえないのではないでしょうか。見た目から得る先入観の恩恵なしに、この社会を生き抜くことは難しいともいえます。