イラン国内に潜伏する「裏切り者」
イランは中東の国ではめずらしく国民による選挙を通じて大統領および国会議員を選出する制度をとっている。こうした選挙の投票率は、しばしば国民がイラン体制に対する関心や期待を表すバロメーターとみなされてきた。
実際、近年のイランの大統領選挙の投票率は、2013年は約72%、2017年は約73%と高い水準を維持してきたが、2021年には約48%に急落し、2024年(第1回投票)は約39%と低下した。この顕著な投票率の落ち込みは、長年にわたる経済状況の悪化や先行きの見えない社会への閉塞感からイラン国民の間に政権への期待が薄れ、見切りをつけ始めていたことを表している。
こうした状況を背景に、政権内部の結束や忠誠心にも揺らぎが生じている。2025年6月、イスラエルはイランが進める核開発を戦略的脅威とみなして、イラン本土への攻撃を開始した。この戦争には、後から米軍も加わり、イラン核施設や軍事施設などを12日間にわたって攻撃し、防空システムについては壊滅的な打撃を与えた。
ホセイン・サラミ革命防衛隊司令官やイラン軍参謀総長のモハンマド・バゲリ氏などイランの高官も次々に暗殺され、イスラエルが公開した映像資料によって、国内にイスラエルへ協力する内通者が存在する事実も白日の下にさらされた。
とりわけ、2022年にイランの機密情報流出への懸念が高まっていた中、イランの情報組織の立て直しを託されていたイスラム革命防衛隊(IRGC)の情報部門の責任者モハンマド・カゼミが暗殺されたことは、イスラエルの諜報がイラン政府中枢に浸透していることを強く印象付け、イラン体制側に深刻な危機感と疑心暗鬼を抱かせた。
外国人の拘束が相次いでいる背景
対外機関による諜報活動への警戒を強めるイランでは、日常的に外国人に対する取り締まりが強化されている。AP通信によると、2022年に休暇を過ごす目的でイランを訪れていたフランス人の教員組合幹部とそのパートナーが拘束され、スパイ活動やイスラエルの諜報機関を支援した罪で長期の懲役刑の判決を受けている。
2025年1月には、世界一周のバイク旅行でイランに滞在中だった英国人夫婦がスパイ容疑で拘束され、10年の懲役刑を言い渡されたとロイター通信が報じている。
2025年6月のイスラエルによる攻撃以降、イラン当局の警戒心は頂点に達していた。イランの国営通信社「メフル通信」によると、イラン情報省は体制に批判的な海外ペルシャ語メディア「イランインターナショナル」との関係を理由に、98人の工作員を逮捕・召喚したと7月28日に発表した。
米ニューヨークに拠点を置くCPJ(ジャーナリスト保護委員会)によると、2025年末の大規模抗議活動でジャーナリスト12人の逮捕を確認し、そのうち7人が引き続き収監中という。
基本的にイランは外国人拘束者については公表しないか、国籍や氏名を伏せて発表することが多い。その理由は、非公表とすることで、相手国の行動を制限し、当局が主導権を握ることで外交カードとして最大限に活用したい狙いがある。

