多数の一流スパイを養成し特殊作戦を遂行

モサドが強力になったのは、外敵の侵攻を許せない厳しい地形の中で、常に存亡が問われているという危機意識が国民にあるためです。

イスラエルの国土面積は、日本の四国程度です。それが、細長く南北にのびています。東西で最短の部分の幅は15キロメートルで、最も離れた部分も135キロメートルしかありません。

ヨルダン川西岸にはパレスチナ自治区がありますが、この周辺には高地が多く、イスラエルの多くの領土は上方から攻撃されるリスクにも直面しています。そして、イスラエルの人口の大部分はテルアビブなど地中海沿岸の地域に集中しています。初動で失敗して敵の侵攻を許せば多数のイスラエル国民が犠牲になり、政府の機能が一気に失われる可能性があります。

イスラエルは第2次大戦後、パレスチナ人から土地を奪う形で建国した経緯があります。それだけに、今なお中東の大半の国とは外交関係も持てていません。この環境が、周囲の敵に対して決定的な優位性を持とうとするイスラエルの防衛政策をもたらしました。

その一環として不可欠とみなされたのが情報工作でした。モサドは多数の一流スパイを養成し、首相から多額の予算や特別な権限を与えられてきました。敵国の要人の暗殺や破壊行為といった特殊作戦も国民に支持されてきました。モサドは強い危機意識を持つ国民に支えられて強力になったといえます。

最高機密のコンセプト
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イスラエルの世論が強硬策を支持する理由

イスラエルがイランに対して極端な強硬姿勢に出ているのも、こうした国民の意識があるためです。イスラエルはイランが核ミサイルの開発を進めているとみて、容認しない姿勢を鮮明にしてきました。

イスラエルは表向き認めていませんが、事実上、核兵器を保有しているとみられています。敵が発射するミサイルを撃ち落とす「アイアンドーム」と呼ばれる、独自の強力な対空防衛システムも配備しています。それでもイスラエル側はイランに核ミサイルの開発を許せば、自国が滅亡するリスクがあると深刻にとらえています。

実際、2025年6月のイランとの攻撃の応酬では、イラン側が発射したミサイルの一部を迎撃できず、中心都市テルアビブへの着弾も許してしまいました。イスラエルの元高官は「もし核が搭載されていたら、我々は滅びていた。それに核攻撃の応酬になれば、国土が小さい側の分が悪い」と語りました。

イスラエルには、強い不安があるのです。それは、核という抑止力を持ってもぬぐえません。敵への警戒感が強くなれば、敵を滅ぼさなければ安全を確保できないという心理に陥りやすいのです。

米欧メディアの報道によると今回のハメネイ師への殺害作戦の発端は25年12月、イスラエルのネタニヤフ首相が米南部フロリダ州パームビーチのトランプ氏の別荘「マール・ア・ラーゴ」を訪問した時だったそうです。今回の軍事作戦は、不安にかられたイスラエルに米国が引っ張られた側面があります。