警察からの連絡に児相側は混乱
警察の通告理由は「4人の女性及び同児童に氏名等を質問するも黙して答えず、また健康状態についても、不良と認められ、更に、保護者についても周囲には同道してなく判明しなかったことから、このまま放置すると児童の福祉に重大な阻害を及ぼすおそれが認められたため」とされている。
このとき、現場の警察官からの連絡は、警察本部にいる生活安全部参事官を介して、児童相談所の次長に伝わることになっていた。ところが、伝言ゲームを繰り返すうちに、保護対象の子どもの数がどんどん膨れ上がっていく。児相側が当初聞いていたのは25人だったが、それが50人になり、60人になり、最終的には75人になるかもしれないと伝えられた。
この連絡に児相側は混乱した。一時保護所の定員はわずか12人。一度に75人もの子どもが来るとなると、県内の児童養護施設に分散して預かってもらうしかない。それには各施設や警察の警備担当者との調整が必要になる。ところが、そんな時間的猶予はなかった。
10時46分、児相からの委託を受けた警察官によって、一時保護が始まった。
第10サティアンは、子どもたちの絶叫と、信者たちの怒声に包まれた。
「放して、放して」と泣き叫ぶ子どもたち
このとき、オウム側が撮影したビデオテープが見つかった。甲府放送局の赤木雅実記者が入手したものだ。
「警察が子どもを拉致!」という刺激的なタイトルで、平穏に生活していた教団施設の中に、国家権力が土足で踏み入り、子どもを無理やり連れ出した……という内容である。手足をバタつかせて必死で抵抗したり、「放して、放して」と泣き叫んだりする子どもたちの姿が映し出されており、「クローズアップ現代」でも番組冒頭のカットに使用した。
「私たちには暗然たる未来が待っているだろう」という重々しいナレーションで締めくくられて、一時保護の不当性・違法性をことさらに強調したオウム側のプロパガンダの一種だ。
現場にいた大人の信者たちは「近くにお母さんがいますから」「なんで連れて行くんですか」と警察官に抗議していた。ある信者の女性はビデオ内で教団側のインタビューに対し、「近くに親がいると訴えても連れて行かれた。母親が抱いている子どもすら大きな機動隊員に連れ去られた」と証言しており、一時保護の不当性を訴えていた。
確かにこの映像を見る限りでは、嫌がる子どもたちを無理やり連れ出したと見えなくもない。ただ、サティアン内部での粗末な食事や、劣悪な生活環境については一切触れられておらず、オウム側の一方的な言い分だということに注意が必要だ。
現場に入った石和警察署の元警部補、花形友夫さんは「床に残飯は落ちているし、着ているものは汚い。近くに保護者もいないし、子どもを養育する環境としては不適切だったことは間違いない」と証言している。


