富裕層男性の買い回り“2時間”の中身

海外から旧知の友人が来日するとき。大切な人との記念日に、自宅で特別なディナーを振る舞いたいとき。そんな「ハレの日」のために、富裕層は運転手を店の前に待たせ、自ら買い物に出動する。

時間を何より惜しむはずの彼らが、なぜか惜しみなく時間をかけて、専門店を巡るのである。

これは矛盾ではない。

彼らは「無駄な時間」と「意味のある時間」を明確に峻別している。値引きシールを探す5分は無価値だが、最高の食材を選び、専門家の知見を得る2時間は、人生の質を高める投資なのだ。

自宅でディナーを振る舞うと決めた、ある男性の朝を見てみよう。

午前10時、広尾の自宅から運転手付きの車で「ナショナル麻布」へ。(世界各国の食材が所狭しと並ぶ。60年以上の歴史を持ち、日本に住む大使館員や外国人ビジネスマン御用達のスーパーだ)

車のドアを開ける男性運転手
写真=iStock.com/baona
※写真はイメージです

ここで、イタリア産トリュフオイルとゲランドの塩を購入。滞在時間5分、支払い約1万5000円。迷いはない。目当ての商品の場所は把握している。

午前10時30分、麻布台ヒルズマーケットの「日山WAGYU」(110年の目利きが宿る精肉店。長年、東京の飲食店、食卓を支えてきた)へ向かい、事前に予約しておいたシャトーブリアンを受け取る。

店主と調理法について5分ほど会話。「この肉はちょうど今夜が食べ頃ですよ」というアドバイスを受け、隣の山幸でも予約済の天然本マグロ入り手巻き寿司セットもピックアップ。

午前11時20分、「明治屋広尾ストアー」へ。ソムリエと相談し、ブルゴーニュのこなれたエマヌュエル・ルジェのニュイサンジョルジュとドメーヌ・ルフレーヴ シュヴァリエ・モンラッシェを選び、トリュフ入りブリーチーズとモンドールも一緒に購入。滞在時間は15分だ。

帰宅と同じタイミングで長野県の契約農家から朝採れ野菜たちも到着。

合計移動時間、約2時間。合計購入金額、約70万円。

この2時間は「買い物の時間」ではない。最高の食材を選び、専門家の知見を得、大切な人との記憶に残る夜を創るための「投資の時間」なのだ。

時間をかけるもの、かけないもの

ここに、富裕層の買い物哲学の核心がある。

彼らは「どこで何を買うか」の明確なマップを持っている。肉なら日山WAGYUか、SNSで「食べると不幸になる」とまで評されるナニワヤのローストビーフ。

インターナショナル食材ならナショナル麻布。

輸入調味料とワインなら明治屋。

一つの店で全てを済ませるのは「妥協」だ。最高の専門店を知り尽くし、カテゴリーごとに使い分ける――これこそが、彼らにとっての「究極の効率化」なのだ。