和解金は約140億円に上る

両ケースともにトランプ氏側が「勝訴する可能性は低い」とみられていたのに、両社はなぜ和解したのか。考えられる理由は、現職大統領が持つメディア業界の規制や合併承認などに関する強大な権力である。

カリフォルニア大学アーバイン校法科大学院の教授で、憲法修正第1条を専門とする弁護士でもあるスーザン・シーガル氏はこう指摘する。

「これらの訴訟におけるトランプ大統領の主張は馬鹿げています。過去50年間において、トランプ氏はメディア企業を相手取った12件の訴訟で敗訴または取り下げており、最近のケースでも同じような結末を迎えるのは確実と思われていました。トランプ氏が大統領でなかったら、両社は和解しなかったでしょう」(ニューヨーカー誌、2025年8月11日号)。

加えてトランプ氏は、MetaやX(旧ツイッター)など大手テクノロジー企業に対しても訴訟を起こした。理由は、両社が2021年1月6日の議会議事堂襲撃事件で暴力を扇動したとして、トランプ氏のアカウントを停止したのは「憲法修正第1条の言論の自由に違反する」というものだった。

これらの訴訟も「根拠は薄い」とみられていたが、Metaは2025年1月、トランプ氏側に2200万ドルを支払うことで和解し、翌2月にXも1000万ドルで和解した。

前出のニューヨーク・タイムズ紙によると、トランプ大統領の2期目の就任後に大手メディア・テクノロジー企業がトランプ氏に支払った訴訟和解金は9050万ドル(約140億円)に上るという。

トランプ一族の最大の収入源は暗号資産事業

トランプ大統領の長男ドナルド・ジュニア氏と次男エリック氏が経営している企業TTOで、最大の利益をあげているのは暗号資産事業である。

暗号資産とは、中央銀行や政府に依存せず、インターネットを通じて個人間で直接取引する仮想通貨のことだが、実はTTOがこの事業を始めたのは、トランプ大統領が2期目に就任する数カ月前のことだ。

2024年9月、TTOは暗号資産の借入、貸付、取引を伴う「分散型金融」(金融機関を経由せずに取引する仕組みで、分散型台帳で取引を管理する)と呼ばれる分野に参入し、仮想通貨ベンチャー企業「ワールド・リバティ・ファイナンシャル」(WLF)を設立した。

トランプ兄弟は暗号資産ビジネスの実績があるわけではなく、WLFの売り(優位性)はトランプ大統領の支持を受けていることだった。ウェブサイトでトランプ大統領の写真を載せ、「暗号資産の主要提唱者」として紹介した。WLFの戦略は現職大統領の信用とお墨付きを最大限に利用して、人々が怪しい資産と捉えがちなものへの信頼を築くことだが、その取り組みは劇的な成果を上げた。

「利益相反」の懸念も

ロイター通信が算出したデータ(2025年10月28日付)によれば、2026年上半期のTTOの収入は前年同期比の5100万ドルから17倍の8億6400万ドルに急増し、そのうちの90%以上の8億200万ドルが暗号資産事業によるものだという。

しかし、この成功はトランプ兄弟の手腕によるものというよりトランプ大統領の影響力に起因する面が大きく、大統領職と事業の利益が衝突する「利益相反」の懸念が浮上した。

2024年ニューヨーク市9.11追悼式典に出席したドナルド・トランプとJ・D・ヴァンス
2024年ニューヨーク市9.11追悼式典に出席したトランプ大統領と長男ドナルド・ジュニア氏(写真=米国国土安全保障省/PD US DHS/Wikimedia Commons