「なんや?」とつぶやく自分の声

何が起きたか、わからなかった。演説のために録音中だったICレコーダーを後で聞き返すと、「なんや?」とつぶやく自分の声が入っていた。それでも反射的に、その場で警護員になぎ倒される男へカメラのレンズを向け、連写した。

この時はまだ「いたずらか?」と思っていた。「写真は撮れたし、もし、このトラブルを記事にするにしても、何とかなるだろう」

ふと、演台を見返した。安倍の姿がない。「お医者さんはいませんか!」と悲鳴のような声が飛び交っている。そこで事の大きさに気づいた。

読売新聞大阪本社取材班『絶望の凶弾 安倍元首相銃撃事件 山上被告を追った1294日』(中央公論新社)
読売新聞大阪本社取材班『絶望の凶弾 安倍元首相銃撃事件 山上被告を追った1294日』(中央公論新社)

会社へ一報を入れなくては。スマホを取り出したが、何度もタッチミスをした。記者生活22年目。スポーツ記者として数々の大舞台に立ち会い、追い続けた陸上の桐生祥秀が2017年に日本人で初めて100メートルの「10秒の壁」を破った時には、この感慨をどう書けばいいかと頭が真っ白になる感覚も味わった。しかし、今回のような動揺は初めてだった。

奈良支局へ電話を入れた。相手は「デスク」と呼ばれ、記者の原稿を手直しする立場の上司。

「安倍さんが撃たれたかもしれない」
「え? え?」

すぐには話がかみ合わない。

とにかく、一人では手が足りない。記者の応援派遣を求めた。

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