大きな破裂音がした

この時、安倍の後方にあたる南側の歩道では、眼鏡にマスク姿の男が聴衆に紛れて立っていた。演台上の安倍に控えめな拍手を送り、静かに辺りを見回していた。

「佐藤啓候補から、本当に、魂を込めた、訴えがありました。若々しい、頼もしいですね。佐藤さんは、総務省出身。でもただの、官僚ではありません。スーパー官僚だったんです」

右手でマイクを握りしめ、左の拳を訴えに合わせて振る。推す声は徐々に力強くなった。目尻を下げた柔和な表情から一変し、眉間にしわを寄せ、視線も鋭さを増した。緩急、強弱を織り交ぜる安倍ならではのスピーチ術なのだろう。聴衆は熱のこもった演説に目を凝らし、安倍の後方を気にする者はいなかった。