トランプが高い関税で脅すワケ
しかし、その秩序を米国自身が破壊しようとしている。
トランプ大統領の側近で現政権の経済政策に強い影響力を与えているとされているのが、日本における日銀に相当する連邦準備制度理事会(FRB)の理事であるスティーブン・ミランである。
彼は、「ミラン論文」と呼ばれる2024年11月の論考で、米国は現在の自由貿易体制の被害者であり、米国の同盟国は、米国の安全保障と経済の傘の下にいるため、敵国・中立国よりもさらに高い関税を負担すべきであると主張した。
トランプ政権は実際に、日本、韓国、NATO諸国等にも容赦なく、相互関税や分野別関税という名目で高関税を課し続けている。日本でも「トランプ関税」と騒がれ、赤澤亮正経済再生担当大臣(当時)の度重なる訪米が報道された。
これらは、米国が主導してきた現在の国際秩序そのものへの信頼を低下させる行為である。米国が軍事介入に積極的かどうかに関係なく、米国への信頼を失わせている。
中国は世界のリーダーの座を狙う
一方の中国側は依然として米国の圧倒的な軍事力を警戒している。だから米国のこうした対外政策の変化を見て、直ちに台湾に対する軍事行動を起こすとまでは予断できない。
しかしながら、米国の政策変化に便乗しているのは確かだ。米国が自ら失点し続けているなか、自国こそが国際秩序や自由貿易体制の擁護者であるとして、国際社会における立場の強化や影響力の拡大を図っている。
結果的に各国の米国離れが進み、中国に対する信頼感が増せば、仮に台湾統一のために強硬手段に出たとしても、国際社会からの批判を抑えることができるかもしれない。そう計算している可能性もあるだろう。
少なくとも、抑制主義者のトランプ政権内での影響力拡大により、中国は、日米が対処に苦労する平和的統一やグレーゾーン活動のシナリオでは、米軍の介入がない可能性が高まっているとの見立てを有しているだろう。そしてもしそのような統一シナリオが実現すれば、日米はしてやられることとなる。
さらに、武力行使を伴う封鎖や全面侵攻シナリオにおいても、トランプ政権が台湾への3億3000万ドル(約510億円)の武器売却を2025年11月まで却下し続けていたこと等を踏まえると、ウクライナに対する軍事支援のような武器供与すらしないのではないかと中国側に思われても仕方ないだろう。
抑制主義的な動きは中国の、台湾統一に向けた軍事オプションの検討をさらに加速させてしまうこととなる。



