主役を殺さないための「引き算」
さて、ここで問題が生じる。
主役がこれほど強烈な個性を持っているとき、食事に求められる役割は何か。
答えは明快だ。「引き算」である。
繊細かつ複雑な熟成ワインの香りは、濃厚なソースのかかったフレンチや、脂の乗った大トロの寿司と出会った瞬間、かき消されてしまう。何十年もかけて育まれた香りの繊細なレイヤーが、たった一口の料理で台無しになる。それは、名画の前に派手な看板を立てるようなものだ。
だから彼らは、食事を徹底的にシンプルにする。
ハードタイプのチーズなど旨味が凝縮された一片やドライフルーツ、そして無塩のナッツなど、ワインの余韻を優しく受け止める。――これらは、成城石井で揃う、調理不要の面々だ。どれも、安いものであれば300円程度で買えるだろう。
「高いツマミ」にこだわるのは中間層
「ベル・エポック」や「クリュッグ」といった高級シャンパンの横に、銀のボウルに盛られた塩味のポテトチップス。
トリュフ味などという気取ったものではない。スーパーで150円で売っている、あのポテチだ。
一見、冗談のような組み合わせ。しかし、これには確かな理由がある。
シャンパンの鋭い酸味と力強い泡は、ポテトチップスの塩気と油分を瞬時に洗い流し、口の中をリフレッシュさせる。キャビアも「塩気と油分」という要素は同じだが、ポテチはより軽快で、会話の邪魔をしない。立食で談笑しながらつまむには、これ以上の相棒はない。
彼らはこれを「ハイ&ロー」と呼ぶ。最高級のワイン(High)に、最も大衆的なスナック(Low)を合わせる遊びだ。
同じ論理で、ボルドー五大シャトーにはハンバーガー。樽熟成のムルソーにはポップコーン。
「高い酒には高いツマミを」――その固定観念に縛られているのは、実は中間層だ。他人の目を気にした「見栄」こそが、本当の贅沢から最も遠い場所にあるといえる。


