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前田社長のある1日

会議も商品開発と同じで、時間をかければいいというものではありません。スピード感を持って出した結論のほうが間違いが少ないものです。そうなれば余った時間で次の段階のことも考えられ、結局、時間が有効に使えるようになるのです。

会議で使う視覚化した資料では、まず結論部分を前面に出すようにしています。1番訴えたい最重要ポイントを、大きな文字で、ページの冒頭にキャッチとして掲げるようにしているのです。どんな企画書や報告書でも、結論が冒頭に書いてあって、その後に、「その理由は」「そのメリットは」と続いたほうが理解されやすいものです。

新製品を開発するときも、商品設計云々より、まず仮の商品パンフレットを先につくってしまうこともありました。このパンフレットに書かれているような商品なら、お客様にも喜ばれ、営業員も自信を持って提案できるのではないか……などと考えつつ、「さあ、我々でこの商品を開発しよう!」と全員に号令をかけるわけです。

要するに最終ゴールを先に設定して、「それを達成するためにはどうしたらいいか?」と発想していくのです。そのほうが早く、またブレも生じません。

モノづくりはただ時間をかければいいというものではありません。スタート地点の側からひたすら積み上げる形でやっていると、あれもこれもとさまざまなことが気になってしまい、結局、中途半端なものになってしまいがちです。たとえば、ピンクのバラの花を描くはずだったのに、そこを徹底せずにあれもこれもと余計な色を混ぜると、最後にまったく違う色にしか見えないものになってしまうこともあるのです。

前述の「ココセコム」の場合も余計なものをすべて削ぎ落とし、48グラムという最軽量を実現しました。最初から持ち運びに便利な「軽量」を最大の特徴として掲げていたからこそ実現できたのです。もしゴール設定が曖昧であれば、この機能もあの機能もと欲張って重量がかさみ、商品の最終形態にブレが生じてしまったかもしれません。

突き詰めていけば、会議で掲げる結論や、開発目標として打ち出すゴールの根幹には、セコムグループの理念があるのです。「セコムが実施することが社会にとって有益か」「社会システム産業の構築の一翼を担っているか」という考えです。これを常に徹底しておけば、ゴールはおのずと見えてくるのです。今回の大震災では身分を証明する書類や常用薬の処方箋等を紛失した方がたくさんおられましたが、その種の個人重要データをお預かりしておくシステムもすでに企画を立ち上げ、開発しています。

セコム社長 前田修司
1952年、鹿児島県生まれ。早稲田大学高等学院卒。早稲田大学理工学部卒業後、81年セコムに入社し、企画・開発を担当。97年取締役就任。常務取締役、副社長などを経て、2010年1月、社長に就任。
(小山唯史=構成 澁谷高晴=撮影)
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