大規模調査が示す「驚きの健康効果」
2016年、アメリカとヨーロッパの研究者によって行われた約140万人の大規模解析では、運動量の多い人は、食道がんで0.58倍、肝臓がんで0.73倍、肺がんで0.74倍、大腸がんで0.84倍、乳がんで0.90倍と、幅広いがんでリスクが下がることが示された。
この研究は、米国国立がん研究所(NCI)が中心となり、欧米・アジアを含む複数の前向きコホート研究を統合したプール解析で、対象は12の前向き研究から集められ、追跡期間も平均で10年以上だった。
評価された身体活動は、職業にともなう活動量だけでなく、余暇における中強度から高強度の運動までも網羅された。つまり「仕事で体を動かすか」「余暇で運動するか」という区別を超えて、身体を動かす時間と強度をすべて加算し、がんリスクとの関連を検証したのである。
解析では年齢、喫煙歴、飲酒、食事内容、BMIといった交絡因子が統計学的に調整された。その結果、「活動量そのもの」が、独立した予防要因であることが裏づけられた。特筆すべきは、肺がんや肝がんのように従来は生活習慣の影響が複雑と考えられていた部位においても、身体活動の多い群で有意にリスクが低下していた点である。
「1日15分」の運動で寿命は3年延びる
さらに、台湾で行われた40万人以上を対象にした10年以上の追跡研究では、一日にわずか15分の軽い運動でも寿命が3年延び、がんの死亡リスクは14%低下することが明らかになった。
これは台湾国家衛生研究院のチームによる研究で、1996年から2008年にかけて受診者の健康診断データを収集し、自己申告による身体活動量と、その後の死亡率を突き合わせた大規模コホートである。
特徴的なのは、活動量を「メッツ時(MET-h/week)」という指標に換算して定量化した点である。「メッツ(MET)」とは、安静時の消費エネルギーを1としたときの運動強度を表す単位で、たとえば早歩きは約4メッツ、軽いジョギングは6メッツ程度とされる。
これを時間で積算したものが「メッツ時」であり、1週間あたりの総運動量を示す。一日15分程度の軽いジョギングや早歩き、あるいは体操程度でも、1週間あたり約90メッツ時に相当し、それだけでがん死亡率を有意に下げる効果が観察されたのである。
しかも活動時間が増えるにつれて、寿命延長と死亡リスク低下の効果は、用量‐反応関係で確認された。一日15分に、さらに15分以上運動を増やすごとに、全死亡リスクで4%、がん死亡に限っても1%の低下が認められたのだ。これは偶然ではなく因果的関連であることを支持する強力な証拠である。とくに一日30分以上運動する群では、がん死亡リスクは27%も低下していた。

