上を見ればキリがない
「人と比べる」ことが生むのは、往々にして負の感情です。焦り、嫉妬、羨望、そして自己嫌悪。「自分はダメだ」「なぜ自分だけがこんな思いをするんだ」と、心がどんどんすり減っていく。比べる対象は際限なく現れますから、どれだけ自分が恵まれていても、上には上がいる。キリがないんですな。
そして、この「比べる」という行為は、自分自身の価値を、常に外部の、不安定な基準に委ねてしまうことになります。自分の軸がなくなり、他人の評価や世間の目に振り回されるようになる。これほど息苦しいことはありません。
特に還暦を過ぎて、これまでのキャリアや肩書きといったものが変化してくる年代になると、若いころの成功体験や、他人との比較で築き上げてきたプライドが邪魔をして、余計に苦しくなることがあります。「現役時代はこんなものじゃなかったのに」「あのころの自分と比べて情けない」と、過去の自分や今の他人と比較して、自分を否定してしまう。
これは、せっかく人生の円熟期を迎えているのに、非常にもったいないことです。こういう人はSNSでのアイコンも学生時代など若いころの写真を使っていたりしてね……(笑)。
「あの人より上に行こう」が福を阻む
さあここで、改めて「割り勘思考」の出番です。繰り返しますが、「割り勘思考」というのは、自分がすべてを抱え込まず、他者と分かち合い、共に生きるという考え方です。
この「共に生きる」というところが肝なんですな。
他人を、蹴落とすべき競争相手としてではなく、同じ時代を生きる仲間として、共に助け合い、支え合う存在として捉える。そのためには、「人と比べる」というメンタリティから意識的に距離を置くことが不可欠なんです。
だってそうでしょう?
「あの人より上に行こう」「あの人より多く得よう」と考えているうちは、自分が持っているものを人に「分福」(自分が持っている幸福や、得た利益、楽しみなんかを、独り占めしないで、周りの人にお分けすること)しようとはなかなか思えません。自分が損をするような気がしますからね。
また、困難に直面した時に人に「負担を割り勘」してもらおうと、素直に助けを求めることも難しくなります。自分の弱みを見せたくない、負けを認めたくない、というプライドが邪魔をするから。これらはすべて、「人と比べる」ことから生まれる心理です。
「人と比べない」ことで、私たちはようやく自分自身と向き合うことができるはずです。
「自分は何を持っているのか」「自分は何ができるのか」「自分は何を大切にしたいのか」。他人の物差しではなく、自分自身の内なる声に耳を傾けることができるようになるんです。そして、その自分自身の「福」(財産、能力、経験)を客観的に見つめ、これをどう活かすか、誰とどう分かち合えば皆が幸せになれるのか、を考えられるようになる。これこそが、「割り勘思考」の出発点なんだと、私は胸を張って申し上げます。
「惜福」(今現在自分が持っている幸福や恵みを大切にして、決して粗末にしたり、無駄遣いしたりしない、という意味)の精神も、「人と比べない」からこそ、より深く実践できます。他人がどれだけ持っているかではなく、今、自分が持っているものに目を向け、それを大切にする。些細なことにも感謝できるようになる。これは、自分自身の内面を豊かにすることにつながります。

