好条件の転職に潜む「罠」
こうした事案に触れながら感じるのは「条件が良いこと自体がリスクになる」という皮肉な現実です。これには以下の心理的・構造的な要因があります。
期待と現実のギャップの肥大化
「ホワイト企業だから」「大企業だから」というイメージが強いほど、入社後の小さな違和感に蓋をしがち。「こんなはずはない」と現実を否定し続けているうちに、気づけば心が摩耗しているのです。
相談を阻む「プライド」と「負い目」
「せっかく良い会社に入ったのに、弱音を吐いてはいけない」「期待されて入ったのに、できないと言えない」という心理的ハードルが、他者に助けを求めることを阻みます。周囲も「あの人なら大丈夫だろう」と過信し、救いの手が届きにくくなります。
役割の重さと逃げ場のなさ
高待遇であるほど、企業側は「即戦力」として高いパフォーマンスを求めます。すると、その人に負荷が集中しやすくなり、本人は「自分が辞めたらこのプロジェクトが止まる」などの責任感から、逃げ場を失っていきます。
「適応できない人が悪い」というすり替え
特に日本の組織では、「良い環境を用意しているのだから、適応できないあなたが悪い」という論理がまかり通りやすいと言えます。学閥や仕事の丸投げなど、組織側の構造的な問題が、「個人の能力やメンタルの弱さ」の問題にすり替えられてしまうのです。
環境を変えてメンタル不調を回復させた事例
一方、環境を変えることでメンタルヘルス不調が改善した事例も多くあります。
事例① 異動によってリセット可能な「公務員」へ
中小企業で働いていたDさんは、前職で深刻な人間関係の悩みを抱えていました。一度社長や同僚との関係が悪化すると逃げ場がありません。「アットホーム」と言えば聞こえは良いですが、家族構成やプライベートまで筒抜けで息苦しさを感じていました。
そんなDさんが転職先に選んだのは、自治体勤務の公務員でした。公務員は約2年ごとに定期的な異動があります。転職後、相性の合わない上司に当たったり、適材適所とは言えないポジションになったりしても「あと数年で異動だから」と割り切れるようになったそうです。
事例② 心理的安全性の高い企業へ
大手企業のバックオフィス職だったEさん。一見穏やかに見える職場では「無視される」「意図的に情報共有から外される」「陰口を叩かれる」といった“静かなハラスメント”が常態化していました。Eさんもその標的にされましたが、上司に相談しても「Eさんの気にしすぎでは」と相手にされず、孤独感から、出社前に動悸が出るようになりました。
限界を感じて転職した先は、中規模企業の管理部門でした。そこでは、上司が日常的に「何か困っていることはない?」「この業務の背景はこうだよ」と、オープンなコミュニケーションを徹底。チーム内でも雑談や相談が自然に行われ、心理的安全性を感じられる環境でした。
Eさんは孤立感から解放され、2~3カ月で不眠が解消。半年後には「仕事が楽しい」という感覚を取り戻せたそうです。

