怒らないことが必ずしも「いい上司」ではない

嫌なことは言いたくない、相手を傷つけるようなことは言いたくないというのは、相手のことを考えているようでいて、じつは自分のことしか考えていない。このタイプは、相手の目に映る自分のことだけを考えているわけで、相手そのものには関心がない。自分が嫌われないこと、自分がいい人にみられること、それが何よりも重要なのだ。

配属されたばかりで、まだ仕事に慣れていないときは、だれでも要領が悪かったり、間違ったやり方をしたりするものだ。それを上司や先輩から指摘され、正しいやり方を教えられ、徐々に一人前に仕事をこなせるようになっていく。

まだ不慣れな部下や後輩に落ち度があれば、それを注意するのが上司や先輩としての役割だし、それがやさしさというものである。厳しいことを言わないのがやさしさだといった勘違いが世の中に蔓延しているが、ちゃんと仕事ができるようにまずい点は指摘し、改善を促すのが、ほんとうのやさしさであるはずだ。

職場で上司に叱られる若い女性社員
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです

間違ったやり方をしていても見て見ぬふりでは、部下や後輩はいつまでたっても自分の問題点に気づかず、仕事ができるようになっていかない。

「傷つけたくない」に潜む自己愛

だが、いい人にみられたいタイプは、そうした場面でもけっして注意しない。そして、「あんなやり方をされたら困るよね。毎回だれかがやり直さないといけないし。悪いけど、ちょっと注意してくれない?」などと、同僚に丸投げする。そのようないい人志向の同僚に嫌気がさすという人は、日頃の様子をつぎのように語る。

「後輩がしょっちゅうミスをして困るから注意してと言いに来たので、『あなたが一緒に仕事してるんだから、自分で注意すればいいじゃない』って言ったら、『そんなこと言えるはずないじゃない』って言うんです。どうして言えないのかと聞いたら、ちょっと言葉に詰まってから『傷つけたくないし……うっかり注意するとパワハラって言われる時代だから』なんて言うんです。

それを人に言わせようっていうのはずるくないかって言いたい衝動に駆られたけど、言いませんでした。でも、何だかんだ言うけど、ホンネは嫌われたくないだけなんですよ」

結局のところ、部下や後輩を育ててあげようという親心は皆無なのである。部下や後輩のことを思う気持ちよりも、自分のことを大事にする気持ちが勝っている。部下や後輩の成長よりも、自分が嫌われないことの方がはるかに重要なのだ。