中国系組織が日本人を標的に

犯罪組織はこうした比較的貧しく、大使館や領事館のリソースが限られる国の人々を狙って人身売買しているのが実態だ。エチオピアやケニアなどアフリカ大陸出身者がその一例である。こうした国々の人々はたとえ詐欺拠点から保護されても、母国の政府と連絡が取れず、送還に難航するケースが少なくない。

中国系犯罪組織は中国国境のシャン州やタイ国境のカイン州での大規模な摘発から、「人身売買した中国人に強制労働をさせ、中国人を騙すことは北京の怒りを買う」という「教訓」を得た。一部の組織は中国人以外の外国人を人身売買し、日本や欧米諸国を標的とするようになっている。

その結果、新たに出現しているのが「愛国的な詐欺」である。

特殊詐欺の主な手口の一つは、オンラインでやりとりを重ねて恋愛感情を持たせ、偽の仮想通貨へ投資させるというものだ。被害者を太らせてから財産を奪うやり方が、豚の肥育に似ていることから「Pig Butchering Scam(豚の食肉解体詐欺)」と呼ばれていることは、既に述べた。中国語では「杀猪盘」と書くが、これをもじった「杀洋盘」という言葉が聞かれるようになった。「洋」は外国人を指しており、「中国人ではなく、外国人を騙す」との意味だという(※1)

ロマンス詐欺メッセージのイメージ
写真=iStock.com/Frank Brennan
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米財務省によると、米国における特殊詐欺の被害額は過去数年間で着実に増えてきた。東南アジアを拠点とする詐欺組織による被害額は、二〇二四年に少なくとも百億ドル(約一兆五千億円)に達し、前年比六六%の大幅増となった。

アメリカも危機感を募らせる

ただ、タイ・ミャンマー国境の詐欺拠点に対する米中を中心とした国際的な圧力は徐々に強まっている。

米財務省は二〇二五年五月五日、BGFが米国人をターゲットにした特殊詐欺に関与しているとして、BGFと、組織を率いるソーチットゥ大佐及びその二人の息子に経済制裁を科した。同省はその後もBGFに関連する企業や個人への制裁を重ね、十一月十二日にはDKBAのソースティール総司令官を含む四人の幹部を制裁対象に加えた。

さらに米政府は東南アジアに蔓延る詐欺拠点の撲滅に向け、コロンビア特別区連邦検察局、司法省刑事局、連邦捜査局(FBI)、シークレットサービス、麻薬取締局で構成する「特別捜査チーム」を立ち上げた。特別捜査チームは主にミャンマー、カンボジア、ラオスの特殊詐欺に焦点を当てて捜査するという。米政府による矢継ぎ早の措置は、拡大する特殊詐欺被害への危機感の表れである。

米政府の制裁と時を同じくして、中国政府が国際刑事警察機構(インターポール)を通じて手配していた悪名高い実業家が勾留先のタイから中国へ送還された。

ソーチットゥのビジネスパートナーで、シュエコッコの開発を手がけた「亜太国際控股集団」のトップ、佘智江である。佘は違法なオンライン賭博に関与したとしてインターポールのレッド・ノーティス(指名手配書)に基づき、二〇二二年八月にタイで拘束された。佘がカンボジア国籍を取得していたことなどから中国への引き渡しが遅れていたが、長い法廷闘争の末、送還が決まった(※2)