「見えない万里の長城」の致命的な亀裂

彼らが築いた「見えない万里の長城(OS支配)」には、以下の三つの致命的な亀裂が走っている。

【九変の欠如】
修正能力の麻痺:恐怖政治によって現場からの「悪い報告」が遮断され、誤った方針(ゼロコロナや不動産バブル放置など)を修正できない。平時の拡大には無類の強さを発揮するが、想定外の危機に対しては驚くほど脆い「ガラスの要塞」である。

【道の欠如】
信頼なき依存:孫子が説く「道(民と意を同じくす)」がない。グローバルサウス諸国は、中国のインフラに「依存」してはいるが、「信頼」はしていない。「金の切れ目が縁の切れ目」となる脆弱な支配である。

【将の萎縮】
アニマル・スピリッツの窒息:党の統制が、かつてのアリババのような民間の「異端の将」をいったん排除し、イノベーションの源泉である野心と自由を枯渇させている。

中国は「形(システム)」を作ったが、その中にある「心(道)」を置き去りにした。この空洞こそが、日本が入り込むべき戦略的余地である。

ここでの最後として、孫子はこの段階に至った軍が、最も危険な状態に入ることを明確に警告していることを強調しておきたい。

孫子は九地篇でこう述べた。

「囲師必闕(囲むならば、必ず逃げ道を作れ)」

孫子にとって最大の敗北とは、敵に追い詰められることではなく、自らが現実を修正できなくなることだった。

逃げ道を与えない軍は、平時においては異様なまでに強く見える。だが有事において、最も誤算を起こしやすい。

理由は明白である。

修正が利かない。現実が歪んだまま上層に届く。小さな判断ミスが連鎖し、臨界点を超える。

まさに今、中国国内で起きている一連の粛清――司法トップ、軍制服組の中枢、地方指導部、党中枢にまで及ぶ反腐敗の激化は、単なる規律回復ではなく、「逃げ道なき統治」への移行を示している。

恐怖によって忠誠を純化すれば、短期的には統制は強まる。だが同時に、悪い報告が消える、現場判断が萎縮する、上意下達だけが肥大化するという、孫子が最も忌避した状態が完成する。

中国は外に対しては「不戦勝」を実現しつつある。

だが内に対しては、自軍・自官僚を“亡地”に近づけている。

この逆説こそが、完璧に見える「見えない万里の長城」に走る、最初で最大の亀裂である。

万里の長城
写真=iStock.com/zhaojiankang
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