従兄弟の信清からしたら“面白くない”

信清は信長の従兄弟だが、年上だ。信長の父・信秀が生きていた頃は臣従していたが、信長の代になってからは独立。織田伊勢守家を下す際には協力してくれたが、関係はどうも怪しい。妻が信長の姉(犬山殿)なのに、やっぱり信用できない人物である。

これ、信清の視点で見れば理解できなくもない。年下の従兄弟が、親父が死んだ途端に「ボクが跡継ぎです」と言い出した。しかも、最初は箸にも棒にもかからない「うつけ」だったはずだ。周囲からは「あんな奴が当主でいいのか」と囁かれ、実の弟すら謀反を起こすような人物。

信清としては「信長の小僧、大丈夫か?」と思っていたはずだ。

ところが、そのうつけがみるみる成長している。弟を粛清し、尾張を統一し、桶狭間で今川義元を討ち、美濃攻略にまで乗り出している。驚異というよりは、面白いハズがない。

「なんで、アイツばっかり」

信清は信長より年上だ。織田一族の中でも、それなりの家格を持っている。妻は信長の姉だから、親戚づきあいもある。だが、信長のほうが勢いがある。周囲も、信長に注目している。信清としては、臣従する体裁は取っているけれど、内心では「早く、失敗しないかな」と思っている。

信長にとっても“厄介な身内”

つまり、足を引っ張る身内である。これ、正月やお盆の親戚の集まりで、商売が上手くいったり、いい結婚をした従兄弟を、ネチネチとディスる親戚みたいなものだ。

「いやあ、信長くん、最近調子いいらしいねえ。桶狭間? あれ運が良かっただけでしょ? 今川さんが油断してただけじゃないの」
「美濃に攻め込むって? 斎藤さんとこ、まだまだ強いよ? 無理しないほうがいいんじゃない?」

表向きは親戚づきあいを続けているが、内心では「早く失敗しないかな」と思っている。成功すれば「調子に乗りやがって」と面白くなく、失敗すれば「ほら見たことか」と溜飲を下げる。親戚の中で一番やっかいなタイプである。

しかも、信清にもそうなる理由がある。家に帰れば妻は、その面白くない従兄弟の姉である。

「あなた、信長とちゃんと話した?」
「ああ、まあ、形だけはね」
「形だけって何よ。ちゃんと協力してあげなさいよ」
「いや、俺だって犬山城を守らなきゃいけないし」
「だから、それが信長の邪魔してるって言ってるの!」

こんな夫婦喧嘩が、犬山城で繰り広げられていてもおかしくない。

木曽川の犬山橋から望む犬山城
木曽川の犬山橋から望む犬山城(写真=Alpsdake/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons