西側への急接近がロシアの怒りを買った可能性

元諜報員パノフ氏の死、富豪バウムガートナー氏の失踪、そしてキプロス政界を揺るがす汚職動画の流出。3つの事件は、果たして偶然の産物だったのか。

この問いに答えるには、キプロスの外交姿勢がここ数年で劇的に変わった経緯を押さえておく必要がある。親ロシア派だった同国は、ウクライナ侵攻を契機に西側寄りの姿勢を鮮明にするようになった。これがロシア当局の怒りを招いた可能性がある。

ガーディアン紙によれば、ニコス・クリストドゥリディス大統領は外相時代、親ロシア派とみなされていた。ところが2022年、ロシアがウクライナに侵攻すると、キプロス全体として明確に西側陣営へと舵を切る。ウクライナ支援を打ち出し、アメリカとの関係も深めていった。

そして2026年1月7日、同国はEUの輪番議長国に就任。その式典には、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が主賓として招かれている。ガーディアンはキプロス当局がこうして西側に急接近したことでロシアの逆鱗に触れ、今回の経緯に至ったとみる。

インサイダーによるとキプロス政府は、汚職動画の流出事件を「クレムリンによる報復」と断定している。欧州と連携を深めるキプロス政府への報復として、ロシアがサイバー攻撃や偽情報工作を組み合わせた「ハイブリッド戦術」で揺さぶりをかけているとの理解だ。

欧州に対し、キプロスは信頼できないパートナーであると演出し、貶めようとしている可能性がある。クリストドゥリディス大統領は、動画の出所を特定するため、アメリカ、イスラエル、イギリス、フランスの専門チームに支援を要請したと明かした。

ウルズラ・フォン・デア・ライエン
談笑するキプロスのニコス・クリストドゥリディス大統領とEU首脳たち(写真=© European Commission/European Union, 2026/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

ロシアによる組織的工作が疑われている

ユーロニュースは、キプロス治安当局による初期分析の結果を紹介。当局は流出した8分半の動画について、「ロシアによる組織的な偽情報工作の特徴」と一致していると結論づけた。過去にフランスやドイツ、アメリカを狙ったロシアの工作と同じパターンだという。

キプロス・メールによると、キプロスの首都ニコシアに駐在する西側の外交官たちは、パノフ氏の死について水面下で懸念を示しているという。ある大使はガーディアン紙の取材に、陰謀論のような議論かもしれないと前置きしながらも、ロシアによる工作説は排除できないと語った。別の外交官は「不可解で不気味だ」と漏らす。

折しもキプロスは、半年交代で回ってくるEU議長国の座に就いたばかり。親ウクライナの姿勢を鮮明にしたことで、ロシアとの緊張も高まっている。

検証すら許されなかったパノフ氏の「自殺」や、管轄権の壁に阻まれた失踪事件、そしてこのタイミングで流出した汚職動画。3つの不可解な事件とロシアによる圧力が、今も地中海の島国に暗い影を落としている。

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