織田作之助の結婚通知から、病床の筑紫哲也の手紙、村上春樹の苦情まで、古今東西の作家・文化人がしたためた名文珍文を一挙公開。思わず噴飯、時にため息がもれる名人芸をご賞味ください。
最後は昭和天皇の昭和21年の御製から。その年、敗戦からわずか5カ月目だから、歌会始は行われていない。だが、昭和天皇は国民に向けて御製を詠んだ。
降りつもる 深雪にたへて 色変へぬ
松ぞ雄々しき 人もかくあれ
――戦争に負け、東京は灰燼に帰した。それでも冬になれば、深々と雪は降る。寒さに加えて雪の重さが皇居の松の上にものしかかる。しかし、松は緑の色を変えずにじっと我慢している。松は決して折れない。松の枝はたわみはするが、決して折れることはない。戦争には負けたが、日本人も松のように折れることなく、雄々しく立ち上がらなければならない。
昭和天皇は敗戦後の国民に、打ちひしがれてはならないという気持ちを伝えたくて、歌に託したのではないか。私は情感とメッセージを伝える短い文章というと、つねにこの歌を思い浮かべる。同時にしんしんと松の上に雪が降り積もる映像が浮かんでくる。
(AFLO=写真)