穀物市場は、「売り手」優位の世界

穀物ビジネスは、産地の天候、政治の状況、経済の状況、積み出し港の荷役労働者の数、運搬する船舶のエンジンの排気量など、あらゆる要素が“儲け”に関係し、読みが当たれば儲けが膨らむ。

穀物ビジネスの世界で、“ボリス”というあだ名で呼ばれ、穀物マフィアの連中に一目置かれている男がいる。丸紅の穀物部隊を率いて、ガビロン買収を完遂させた常務取締役の岡田大介である。「この10年あまりで、丸紅の穀物部隊は様変わりした」と、岡田はいう。岡田の明るい性格は“商社マン”そのものだが、その思考は常に戦略的だ。

例えば、岡田は、ライバル会社、東食(現カーギルジャパン)で「穀物の世界を動かす25人」に選ばれた世界的なトレーダー若林哲(現Gavilon Agriculture Investment, Inc. Executive Officer)を引き抜いて、穀物業界をアッといわせもした。

さらに、穀物ビジネスのカギとなる用船ビジネス(貨物用の船舶を時間で賃借するタイムチャータービジネス)の仕組みに目をつけて、このビジネスモデルをいち早く丸紅に導入したのも岡田である。岡田は、穀物ビジネスの要諦をこう解説する。

「穀物の売買価格というのは、実は“ガラス張り”の世界なんです。むしろ、穀物の輸送にかかる運賃などが、掴みどころのない世界。逆にいえば、輸送にこそ“利幅”が存在します」

穀物ビジネスは、時間借りしている船舶をどう効率よく動かせるかにかかっている。ものを単にA地点からB地点に運ぶだけでは、さほどの利益しか生まれない。いい買い手が見つかった瞬間、B地点を目指していた船舶をC地点に差し向け、さらにD地点に向かっていた船舶をB地点に差し向けるといった臨機応変な対応こそが多大な利益をもたらす。

今回、ガビロン買収に丸紅が乗り出した理由は恐らくこういうことだろう。

日本の商社の中でも、丸紅の穀物部隊は、取引量の大きさで、世界に知られている。とはいえ、ガビロン買収まで丸紅は、穀物の「買い手」にすぎなかった。穀物の「売り手」と「買い手」では、取引の有利さが全く違う。岡田は、過去に「売り手でない」悲哀を何度も味わった。

穀物の市場価格はおおむね決まっているため、売り手の立場であれば、穀物価格が推測でき、いつ売れば“儲かる”かどうかもわかる。しかし、「買い手」の立場だと、売り手から「売り物がない」といわれれば、それまでだ。穀物市場は、完全に「売り手」優位の世界なのである。

「買いたくても、ものが買えない、売ってもらえない。こんな惨めなことはないですよ。今回ガビロンを買ったことで、今まで買い手の立場だけだったのが、売り手と買い手の両方の立場になれた。これは大きいですよ」(岡田)

(丸紅=写真提供)
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