「しんどい」と思ったことはない
「たぶん私、農業が合ってるわ」。継いで2年目、ふとそう思った。ものづくりが好きだった少女は今、農業というものづくりに没頭している。
就農9年、一番しんどかったことは何か。奈緒美さんに聞くと即答だった。
「やっぱりお義父さんのことやね。それ以上しんどいことは今までなかった」と、目を伏せる。
2018年に台風でハウスが半壊し、600万円の修理費がかかった。それでも「しんどい」とは思わなかった。義父を失ったあの日を超えるものは、まだない。
「やるか、やらへんか」しかない
ハウスが半壊したとき、奈緒美さんの頭の中は、「修理費600万円をどうやって回収するか」。それだけだった。
友人たちは奈緒美さんのことを「考えてそうで、考えてなさそうで、考えている。だから、誰もマネできない」と評する。
昨年から着手したブルーベリー栽培も、夫に「お義父さんのハウスのアスパラの株が弱ってきているから、8棟中2棟をブルーベリーにするから」と告げるだけ。やると決めたら相談はしないし、悩まない。
「『やるか、やらへんか』の二択です。『ちょっと考えよう』ってこともしない。迷っているうちはやりません」
今年の夏に初めて収穫するブルーベリーでジャムを作ると決めていて、ラベルのデザインはもうPCに入っていると無邪気に笑う。「マイナスのリスク? いいのか悪いのか分からないけど、うまくいくことしか考えていません(笑)」
“私が勝つ”。アスパラガスの花言葉の一つだ。義父の死をきっかけにアスパラ栽培へ流れ着き、誹謗中傷を自らの行動で払拭した奈緒美さんは、まるでこの花言葉を体現するように畑に根を下ろす。
次なる一手は、4500個のしいたけの菌床。アスパラ収穫後の10月から始まる、もう一つの挑戦だ。それは後に、3年連続金賞の快挙と、年商約1000万円という数字を生み出すことになる。


