「あんたたち、見とけよ」
継ぐと決めた当初、近所の反応は冷たかった。
「あんな嫁には、できひんわ」
「すぐ辞めるやろ」
「継ぐんやったら、なんでもっと早く継いでやらへんかったんや」
奈緒美さんのファッションやヘアスタイルを見て陰口を叩く人たちがいた。もちろん、「そんなこと言わんとき! あの子も頑張ってるんやから」と怒ってくれる人、道具を貸してくれる人、作業を教えてくれる人もいた。応援してくれる人の方が圧倒的に多い。
だが、たった1割の心無い言葉でも、義父を失った直後の心と、農業未経験の不安を深くえぐるには十分だった。同時に、誹謗中傷の声は反骨精神に火をつける養分にもなる。
「あんたたち、見とけよ」
2016年6月、義父の戒名から「瑞雲」を借りて、瑞雲ファームを設立。何くそ根性だけが、前に進む原動力だった。
売り場で目立つパッケージでファンを増やす
継ぐと決めてから、栽培と同時に販路の開拓にも動いた。というのも、義父の販路はJAだけ。しかしそれでは自分で値付けできないうえ、他の農家のアスパラと混ざる「共撰」になる。農業で収益を上げるなら、いろいろな場所に置くのは必須だと考えた。そこで注目したのは、地元スーパーの地場産コーナーだ。
運営元のマックスバリュ東海に「どうやったら地場産コーナーに置けるんですか?」と直接電話。中間業者がいると分かり、すぐに繋いでもらった。JAが運営するスーパーのAコープは、JAに直接聞いて置き方を知った。まだ収穫もままならない時期から、市内のスーパーへの販路を広げていったのだ。
さらに、手に取ってもらう仕掛けとして包装のデザインも工夫した。まるで贈り物のようなラッピングや、奈緒美さんをキャラ化したイラストのシール。地場産コーナーの中でも目に留まりやすいよう、「瑞雲ファーム」の名前を前面に出すことにこだわった。
「消費者だった頃、『この人の作物いつも美味しいよな』と名前買いしていたんです。だから生産者になるなら『瑞雲ファームのアスパラおいしいな』と思ってもらいたい。ブランドとして出して、ファンを増やしたかった」
この作戦は功を奏し、「瑞雲ファームのアスパラ」として市内の人に認知されるようになった。冒頭の女性も、最初はスーパーでアスパラを見かけたのがきっかけだという。
