「ダサい、汚い、儲からない、時間がない」を払拭する

農業経験はゼロで、土に触ったことすらない。それでも、忠司さんが7年間頑張ってきたものをなくしたくない思いがあふれて出た。

「初心者の私が『継ぐ』って言ったら家族は協力せざるを得なくなるし、前を向くきっかけになるかもしれないと思って。それに、ここでアスパラをやめたらお義父さんの生きてきた証しを全否定されるような気がしたから」

義父が亡くなって1週間も経っていなかったが、迷いはなかった。

「ダサい、汚い、儲からない、時間がない」。農業にネガティブなイメージを抱いていた奈緒美さんは、農家になると決めた以上、このイメージを払拭しようと考えた。

「かっこいい農家になる」と心に決め、その日のうちにオリジナルの作業着を作り、自分の好きなスタイルで作業することにした。これは、誰かのためじゃなく、自分のモチベーションを保つため。

瑞雲ファーム立ち上げ当初の奈緒美さん
写真=瑞雲ファーム提供
瑞雲ファーム立ち上げ当初の奈緒美さん

「どうやって収穫すんの?」から始まった

義父を失った悲しみに浸る暇はない。収穫期真っただ中、数日間手入れを怠った畑には虫が大量発生した。対処方法は知らない。収穫方法も分からない。農家の知り合いは、一人もいない。

唯一相談できたのは、義父の弔問に来てくれたJAの指導員だった。すがるように助けを求めると、指導員は薬品の量やタイミング、収穫方法、収穫後の育て方など、すべてのスケジュールを立てくれた。毎日電話し、畑にも来てもらった。それでも、収穫したアスパラは全部廃棄しないといけない品質。「もう、ほんまにしんどかったです。やり切れん気持ち」

さらに農家になって早々、朝夕の1日2回の収穫に追われた。農繁期は朝4時半から収穫。11時に2回目。真夏に入る前でもハウス内の温度は40度を超え、暑さとの闘い。午後1時にはすべての作業を終えないと体がもたない。収穫後は出荷準備に加えて、6歳の息子の子育てもある。

「どうやって生活していたのか、本当に覚えてないんです。ご飯は作っていたのかな? 必死すぎて記憶がなくって」

ただ、唯一覚えているのは、伊賀のアスパラ部会の会議にはすべて出向いたことだった。もともと人見知りだったが、「中井さんとこのお嫁さんやで」と紹介してもらいながら、少しずつ横のつながりを作った。

「分からないから教えてもらわないといけない。個人で事業をする以上、地元の農家とつながることが一番大事だと思いました。10年目の今でも分からないことは聞きます。毎年気候が違うから、『去年はこうだった』が通用しない。経験を積んで引き出しが増えただけで、毎年一年生のようなもんです。分からへんものは分かる人に聞いた方が効率的じゃないですか」

アスパラの収穫期は4月上旬から5月下旬が春採れ、7月上旬から9月下旬が夏採れ
写真=瑞雲ファーム提供
アスパラの収穫期は4月上旬から5月下旬が春採れ、7月上旬から9月下旬が夏採れ