始まりは2025年4月22日。アースデイだったこの日の直後、トニー・ブレア元英首相と「トニー・ブレア・グローバル・チェンジ研究所」が、世界の気候変動対策には「抜本的なリセット」が必要であり、現在のネット・ゼロ(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)戦略は「失敗する運命にある」と主張した。
続いて10月、COP30(国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議)に先立ち、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツが、気候変動対策の投資には「これまでとは違う視点」が必要だと主張するエッセーを発表。各国の指導者に「戦略の調整」を促した。
ゲイツは10年前に仲間の大富豪たちとクリーンエネルギー研究に投資する基金「ブレークスルー・エネルギー連合」を設立しており、近年はクリーンテクノロジーの分野でも影響力を持つ。
「気候変動は貧困国の人々の命や生活にとって最大の脅威ではなく、今後もそうはならないだろう」というエッセーでのゲイツの言葉に、多くの気候変動活動家が憤慨した。
気候変動を「史上最大の詐欺」と呼ぶドナルド・トランプ米大統領は、すかさずソーシャルメディアに投稿した。「私(私たち!)は気候変動のデマとの闘いに勝利した」「ゲイツは自分が完全に間違っていたとようやく認めた」
トランプが気候変動対策に向ける敵意や、世界の一部で熱意がしぼんでいる状況を受けて、既にいくつかの大手金融機関や企業が気候変動の取り組みから静かに距離を置き、ネット・ゼロを目指す公約を取り下げている。
気候変動対策の「リセット」を求める声は確実に大きくなっている。では、何をどのようにリセットしようとしているのだろうか。
「ゲイツの考えには同意するが、方向性は間違っている」と、シェルダン・ホワイトハウス米上院議員(民主党)は2025年11月にブラジルで開催されたCOP30で記者団に語った(地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱を表明している米政府は、今回のCOPに初めて代表を派遣せず、ホワイトハウスは自らブラジルに行った)。
「必要なのは異なるアプローチ、より積極的なアプローチ、化石燃料産業の腐敗と悪事を明らかにするアプローチだ」
上院環境公共事業委員会の党筆頭委員でもあるホワイトハウスは、一貫して気候変動対策の重要性を訴えている。
「ゲイツと会った共和党議員たちから『私たちは何もする必要はない。イノベーションが解決するとビル・ゲイツが言っている』と聞かされて、本当にうんざりする」
炭素排出が経済的な不利益につながらない限り、気候とエネルギーに関するイノベーションは阻まれる、とホワイトハウスは続けた。
「化石燃料産業に与えられている巨額の政治的な補助金により、経済構造がイノベーションを阻む方向にゆがめられている」
彼が求めるリセットはメッセージの転換だ。例えば嵐や洪水、火災のリスクが高まっている地域で住宅保険料が上昇しているが、そうした経済的影響と気候変動の関連性をより明確に示すべきだという。「こうした生活コストの懸念は全て、化石燃料産業とそのビジネスに行き着く」
ピーター・ウェルチ上院議員(民主党)は、電気料金の値上げに「消費者の反乱」が起きるだろうと語る。過去1年に新たに稼働した発電設備の大半は、再生可能エネルギーと蓄電池だ。
しかし、AI(人工知能)データセンターが電力需要を押し上げる一方で、トランプ政権がクリーンエネルギー開発を抑制する政策を続ければ、電力供給の拡大は難しくなる。
「これは電気料金の高騰に直結する」と、ウェルチは2025年9月に気候変動関連のイベント「クライメート・ウイークNYC」で本誌に語った。気候変動だけでは有権者に響かなくても、「それが生活コストや雇用と結び付けば『勝てる』メッセージになる」。

