なぜ「味の素」は日本人に嫌われるのか
味の素は現在、世界中で料理に使われている。とくに中華料理では多用されているようである。
しかし、日本では、化学物質がよほど嫌われているのか、商品名を避けるために使われた化学調味料という名前も嫌われ、さらには、結晶の形が化学的で気持ち悪いというような感想も散見し、忌避されることもままある。
結晶の形が気になるという方は砂糖(sucrose)の結晶であるグラニュー糖についてはどんな感想を持つのであろうか。純粋な化合物はきれいな結晶となることが多いのである。
また、昆布から取れたグルタミン酸なら良いが別途調製された「化学物質」であるグルタミン酸はダメという意見を聞いたこともある。これはおかしなことで、昆布から取れたものも、別途調製されたものも化合物としては全く同じものである。
グルタミン酸には2つの種類がある
ただ、こんなことを言うと混乱を招くかもしれないが、グルタミン酸には平面構造は同じでも三次元構造が異なるものが存在する。
三次元構造を考慮に入れると、昆布から取れるグルタミン酸はL型のグルタミン酸であるのに対し、もしも完全に化学合成するとL型のグルタミン酸とD型のグルタミン酸の1:1の混合物となる。
ただし、発酵を応用したりして製造した場合にはL型のグルタミン酸だけを製造することが可能である。大変に面白いことに、実は、D型のグルタミン酸のナトリウム塩にはL型のものとは異なり、うま味がない。
世界の研究機関が「味の素」を認めた
さて、1960年代に、グルタミン酸ナトリウム(味の素)に対して「チャイニーズ・レストラン・シンドローム(中華料理店症候群)」という症状が喧伝されたことがある。
何人かのアメリカ人が、中華料理店で食事をしたあとに、眠気や、顔面の紅潮、掻痒感、肩や頭が引きつるように痛む症状が現れ、これを中華料理店症候群と呼ぶようになったらしい。そして、これは、中華料理店で大量に使用されるグルタミン酸ナトリウムの摂取が原因ではないかと疑われることになった。
しかし、1970年以降には中華料理店症候群の報告はほとんど見られなくなった。また、ある疫学調査においては、このような症状の発現はごく少ない上、中華料理との関係よりも、むしろメキシコ料理やイタリア料理との関係のほうが、より強かったという結果すらあった。現在、味の素と中華料理店症候群との因果関係は「ない」と結論されている。なお、1987年には世界中の研究機関でおこなわれていたグルタミン酸ナトリウムの安全性試験結果をもとに、国連食糧農業機関と世界保健機関の合同食品添加物専門家会議が、グルタミン酸ナトリウムの安全性を評価し、「グルタミン酸ナトリウムがヒトの健康を害することはないので、1日の許容摂取量を特定しない」との結論が出されている。

