こうした企業では長時間労働が常態化しているだけでなく、過度のプレッシャーからメンタルヘルスにも悪影響を及ぼす。職場の雰囲気が明るかろうが、暗かろうが、構造的に負荷のかかる職場環境では、社員は長続きしない。このため派手な採用活動を繰り広げることになる。一見、採用に力を入れているようにみえるため、リクルートの方法論かと勘違いされやすい。

また決定的な問題は待遇の悪さだ。長時間労働の問題は成熟した大企業にも存在し、「過労死(※2)」といった形で表れているが、ブラック企業という指摘が切実に受け取られないのは、結局、給料がいいからだろう。一部のブラック企業は成果報酬型の給与体系を打ち出しているが、十分な成果を残せる社員はわずかに過ぎない。それは突き詰めれば、人材を安く買い叩きたいという思想でしかない。

国際競争が激化するなか、ブラック企業の存在は仕方がない。いまどきの若者は厳しい環境で鍛えたほうがいい。経営の歪んだ企業はそのうち淘汰される――。そんな議論も聞かれる。しかし問題は深刻だ。ブラック企業をテーマにしたセミナーは毎回盛況だ。なかには子どもを過労死で亡くしたという親御さんもいた。声は悲痛である。

人材とは言ってみれば企業にとっては資源にすぎない。それは感情を持つ資源である。さらに労働者は生活者でもある。生活者をないがしろにする企業が、永続的に発展するとは考えられないが、市場の健全性を保つためには退出は早いほうがいいだろう。若者が食いつぶされることにより社会的負担を増やしてはいけない。我が国の経営者たちは、不可解な事件の汚名を着せられた戦後屈指の名経営者・江副浩正の本心に今こそ学ぶがよい。

※1:連絡会の呼びかけ人は今野晴貴さん。7月に結成された「ブラック企業被害対策弁護団」、貧困問題に取り組むNPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」「ほっとプラス」、労働組合、東京大学大学院の本田由紀教授などが参加する。
※2:厚生労働省「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」(平成24年度)によると、「過労死」など過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患の労災認定件数は338件で2年連続の増加、仕事による強いストレスなどが原因で発病した精神障害の労災認定件数は475件と過去最多だった。

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