なぜ強い? 東宝1社勝ちの背景

もともと東宝のシェアは高かった。日本の映画業界は、製作から配給、興行までをグループ会社で一気通貫で担うメジャー3社(東宝、東映、松竹)のコングロマリットによる寡占状態になっているが、そのなかで東宝は例年の年間興収で東映、松竹に2〜3倍の差をつけている。業界全体で見ても、年によって3〜5割ほどのシェアを維持していたなか、今年はよりその割合を伸ばし、半分を優に超えるとの見立てもある。それはまさに東宝によって市場が成り立っている状態になる。

では、なぜ東宝がそこまで強いのか。

興行は作品次第であり、エンターテインメント大作はもちろん、アート的な作品であっても、映画会社はどこも商業的な成功を念頭において、より良い作品を作ろうとする。そのなかで、東宝は不特定多数の一般層に好まれる作品企画、製作、宣伝の手法に、どこよりも長けていることがある。

1990年代後半から2000年代前半は、邦画冬の時代であり、観客にとって映画といえばハリウッド映画だった。邦画と洋画の比率は、現在とは真逆の邦画が3割前後。そんな苦境から流れを変えたのが、『国宝』に抜かれるまで邦画実写歴代記録を22年維持した、東宝とフジテレビによる『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(173.5億円、2003年)だ。

ドラマを映画化することで、そのファンを観客に取り込み、さらにテレビ局の大量メディア露出による話題作りから世の中的な盛り上がりを喚起し、一般層を映画館に足を向けさせた。そこから邦画人気が高まり、それがすっかり定着して現在に至る。

東宝は、テレビ局とのタッグで映画による世の中的なブームを生み出し、時代を変えた。そして、その手法からヒットを連発することで、いい企画がどんどん集まる。そんな流れが続き、もともと新しいことに意欲的で柔軟な発想を持っていた東宝は、気づけば他社の追随を許さない大帝国を築いていた。

有楽町マリオン
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寡占化が進む市場の負の側面

しかし、その状況は、産業としても文化としても好ましくないだろう。本来映画は多様性が求められる文化だ。現状はそれに反して、シネコンではエンターテインメント大作ばかりが上映され、小規模な社会性の高い作品やさまざまな国の文化を映す洋画などの上映機会はどんどん奪われている。

そこでは、大手映画会社の一部の大作だけがヒットし、その他の大多数の作品はリクープさえ難しい。そんな二極化が進み、インディペンデントの映画製作は厳しい局面に立たされている。

それがこれまで以上に顕著に表れたのが、今年ということになる。映画業界が大盛況を呈した一方、東宝1社による寡占化が進む市場にとっての負の側面も浮き彫りになった。