22年ぶりに記録を塗り替えた「国宝」

数字で見ても、公開3週目でランキング1位に上り詰め、その後、4週連続1位をキープ。以降も21週連続でTOP10内を推移し、圏外となってからも再ランクインするなど、他に類を見ない息の長い興行となった。そして、公開から172日で邦画実写歴代興収1位に輝き、22年ぶりに記録を塗り替えた。

映画『国宝』のワンシーン
©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025 映画「国宝」製作委員会

本作は製作形態も注目された。配給は東宝だが、製作はアニプレックスの子会社のミリアゴンスタジオ。昨今の市場では、テレビ局が製作委員会に入る大量メディア露出が約束された作品や、人気漫画などファン層の下地がありヒットが見込める原作ものでないと、製作費が集まらない。

そうしたなか、ミリアゴンスタジオを中心にする製作委員会は、李相日監督を信じて時間も予算も注ぎ込んで大作を製作し、見事に結果につなげた。コロナ禍以降のヒットスケールの縮小に苦しむ多くの独立系映画会社にとって一筋の光明になる結果だろう。それだけ映画業界にとって意義のある作品になった。

全体の興収の半分が東宝1社

そのほかにも今年の東宝作品には、『名探偵コナン 隻眼の残像』(147億円)、劇場版『チェンソーマン レゼ篇(※興行中:100億円以上見込み)、『劇場版TOKYO MER 走る緊急救命室 南海ミッション』(52.7億円)、『8番出口』(51.5億円)、『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』(46億円)、映画『グランメゾン・パリ』(42億円:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントと共同配給)などの大ヒット作がならぶ。

2025年の興収ランキングは映連により来年1月下旬〜2月上旬に発表されるが、確かなのは今年の100億円超えは、『国宝』『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』『名探偵コナン 隻眼の残像』劇場版『チェンソーマン レゼ篇』の4本となり、すべて東宝作品であること。また、邦画TOP5は、ワーナー・ブラザースの『はたらく細胞』(63.5億円)を除き、この4作を東宝が占めそうだ。

これが示しているのは、今年の映画業界の隆盛=東宝の好業績ということ。東宝は、2025年1~11月のグループ配給作品の累計興収が過去最高の1382億円と発表している。昨年の業界全体の年間興行収入は2069.8億円であり、コロナ前の2010年代後半の同年間興収の平均は2300億円台になる。

今年の業界全体の年間興収は、11月までの数字からは、歴代最高の2019年(2611.8億円)を上回る可能性が高くなっている。もちろん年末年始興行次第にはなるが、400億円と200億円のメガヒット作を出している東宝のシェアは、例年より高くなることが予想される。

【図表】東宝の映画興行収入・2025年1~11月累計
出典=東宝「2025年11月映画営業部門 興行成績速報」より編集部作成