大盛況の一方、関係者には危機感

ただ、映画を選んでいるのは観客だ。日本人の国民性にも現況の要因がある。年間に映画を1〜2本観に行く大多数の一般層は、人気アニメタイトルや今年の『国宝』のような世の中的な話題作=イベントムービーに足を運ぶ。そこでは、映画が外食や旅行のようなレジャーのひとつとして楽しまれている。

一方、世界の現実を映したり、多様な文化を感じる作品やシリアスな社会派作品などを自ら探して観に行く映画ファンは、どんどん数が減っている。その背景には、そういった作品がシネコンでは上映されず、ミニシアターは閉鎖が続いて、観る場所がなくなっていることがある。映画館に行ってもエンターテインメント大作ばかりしかなく、本来観たい作品は配信サービスのほうが充実している。そんな要素が複合的に重なり、年配層を中心にした映画ファンの足が映画館からどんどん遠のいている。

それでもコロナ禍以降の興行が回復しているのは、一部のイベントムービーをレジャーの一環として観に行く人たちが増えているからだ。とくに2020年の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』以降のアニメファンの裾野が広がりが大きく影響しているだろう。人気タイトルのアニメの大ヒットが、毎年の興行を下支えしている。

『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章』配給:東宝・アニプレックス
©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章』配給:東宝・アニプレックス

しかし、彼らは年に何本かのイベントムービーしか映画館に観に行かない。このままの状況が続けば、興行は盛況の一方、多様性を失いつつある映画文化は先細りしていく。独立系の映画会社関係者をはじめ、多くの映画人は危機感を抱いている。

世界的不振のなか日本は好調

2020年代以降は、多くの国で映画興行は苦戦を強いられている。若い世代をはじめ映画が娯楽のひとつとして定着していた韓国は今年深刻な不振に陥っており、欧米の多くの国でも市場は回復傾向にあるものの、コロナ前の規模には達していない。

その最大の要因には、コロナ禍の動画配信サービスの台頭で人々のライフスタイルが変わったことが挙げられている。映像作品の視聴メディアの主役は、映画館(興行)から配信へ移り変わりつつあり、映画業界は過渡期を迎えている。

そうしたなか、映画興行がいち早く回復の兆しを見せていた日本は、今年はいよいよコロナ前の歴代最高興収を超える年間興収を記録しようとしている。その背景には、前述のように映画をレジャーとして楽しむことが、若い世代をはじめとした幅広い層の生活のなかに定着していることがあるだろう。単に映像作品を楽しむだけでなく、その行動に加わる付加要素に価値が生まれている。

ただし、そんな日本市場は世界でも特殊と言われる。その特徴のひとつが、一般層が選ぶ映画がドメスティックに大きく偏っていることだ。昨年は興収の邦洋比で洋画が3割を切り、深刻な洋画離れが叫ばれていたが、今年はさらにその差が開くかもしれない。

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写真=iStock.com/mizoula
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