子役がぐずって撮影できない場合の対処法

『ステップ』という映画を撮ったとき、こんなことが起きた。

シングルファーザーの父と娘が晩ご飯を食べるシーンで、娘役の3歳の女の子がぐずってしまい、まったく食べてくれなかった。

撮影は中断し、現場に焦りが漂い始めた。

そのとき、とっさに私たちチームがしたのは、撮影をしているその真っ只中の場所で、みんなでふつうにご飯を食べることだった。

「ちょっと休憩しようかー」

そう声をかけて、スタッフも俳優も、その場にいた大人たちが、みなカメラのそばで、何食わぬ顔で弁当を食べ出した。

その雰囲気につられて、娘役の女の子もごはんを食べ始めてくれた。

その様子を、にんまりと撮影したのが、本編に使われたカットである。

メイキング映像を見ると、カメラが回っている真横で、スタッフたちが弁当を広げて食べているのがわかる。まさに休憩時間そのものだ。

主役が食べてくれないのなら、休憩時間にしてしまう。そしてなごんだところで、そっとカメラを回す。

「こうなったらいい」というベスト、「それができなかったらどうするべきか」の逆ベスト。できれば、さらにもうひとつくらいを考えておく。

準備で重要なのは、選択肢を2つ、多くてもせいぜい3つに絞ることである。

「準備しすぎる人」が見落としていること

よくあるのは、選択肢を用意しすぎてしまうことだ。

たとえば10パターンも20パターンも用意してきたとしたら、それはもはや準備とは言わない。前項でも触れたように、「第2プラン」は第1プランの劣化版で、「第3プラン」はさらにその劣化版……ということが少なくない。

そういう人は、いざ雨が降ったとき、用意してきた別パターンが多すぎて、即断することができず、何を撮ったらいいかわからなくなってしまう。

ひとつダメなら、残り9つの中から選ばなければならない。雨はどんどん強さを増すのに、そんなことをしていたら、撮影が間に合わない。

飯塚健『晴れのシーンを撮る日に、雨が降ったら?』(サンマーク出版)
飯塚健『晴れのシーンを撮る日に、雨が降ったら?』(サンマーク出版)

現場でときどき見かけるのは、「あれ? こんなに準備してきたのに、なんで私はできないんだろう」という人だ。

企画の段階なら、できるだけたくさんの選択肢を用意するのもいい。だが実践の場では、いろいろな選択肢を試している余裕はない。

もし「2つに絞れない」なら、選択肢を出し切れていない。または、まだ絞れていない証拠だ。

考えすぎた可能性のほとんどは、実際には起こらない。プランは絞っておくほうが、臨機応変に動ける。

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