「社内政治」は必要なのか。昭和女子大学の木村琢磨教授は「日本のビジネス文化ではさまざまな場面で根回しが必要となる。この根回しによって、利害の異なるメンバー間の衝突が避けられ、合意形成がスムーズになると評価されている」という――。

※本稿は、木村琢磨『社内政治の科学 経営学の研究成果』(日経BP)の一部を再編集したものです。

オフィスの窓際で握手をするビジネスマン
写真=iStock.com/Robert Daly
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障害になりそうな上司の「外堀」を埋める

社内政治の代表例ともいえる「根回し」「ゴマすり」の例をいくつか見ていきましょう。

根回し

事例1
ミドルマネジャーの佐藤さんは、カスタマーサービスの方針を変更し、新しい体制に刷新することを役員会議で提案したいと考えています。しかし、いきなり会議で提案するのではなく、その1カ月前から役員たちとランチや雑談の機会をつくり、提案の内容を事前に説明しました。

事例2
プロジェクトリーダーの石川さんは、新しいプロジェクトマネジメント用システムの導入を提案したいと考えています。しかし石川さんは、IT部門が業務過多を理由に反対する可能性が高いと予想しました。そこで石川さんは、全体会議の前にIT部門長と非公式に会い、導入スケジュールや必要なサポートについて意見を聞きました。

事例3
総務部の望月さんは、フリーアドレス制度の導入を提案しようと思いました。しかし、直属の上司である総務課長は保守的で、職場の慣行をあまり大きく変えたがらないタイプです。そこで望月さんは、総務課長が営業部門にいたときの先輩や上司など、総務課長に対して影響力を持つベテラン社員たちにまず個別に相談しました。

社内の「敵」のキーパーソンから懐柔

事例4
研究開発部長の村山さんは、成功すれば大きな成果が出ますがリスクも大きいプロジェクトに予算をつけてもらいたいと考えています。村山さんは、予算会議の数週間前から、競合他社の成功事例を経営陣にさりげなく紹介したり、財務担当役員を実験室に案内したりしました。

事例5
マーケティング部と製造部は以前から意見が合わず、何かと対立しています。しかし、今度の新製品のキャンペーンでは両部門の緊密な連携が必要です。マーケティング部の部長を務める桐原さんは、正式なプロジェクト会議の前に製造部長をはじめ製造部のキーパーソンを昼食に誘いました。そして食事をしながら、これまで抱いてきた不満を語ってもらい、どのように改善ができるかを話し合いました。

これらは根回しと呼ばれる事例です。これらの例が示すように、根回しは正式な会議の前に

・ 意見をすり合わせる
・ 関係者の支持を確保する
・ 事前に情報を提供して新しい提案に対する心理的ハードルを下げる
・ 影響力のある人に陰で動いてもらう

など、さまざまな目的で行われます。根回しは社内政治的な行動としてよく挙げられるものの代表例です。