入念な下準備と緻密なプレゼン

それだけに2人は、夜味の実現も一筋縄ではいかないだろうと覚悟していたという。

「実際、ハードルはすごく高かったですよ。シャウエッセンはずっと主力商品なだけに、社内では聖域のような存在。それを、30〜40代男性の夕食シーンを狙います、味を変えます、焼き調理を訴求しますと提案したわけですから、反対の声もたくさん上がりました」(岡村さん)

岡村香里さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
「最終的にはシャウエッセンに戻ってきてもらうことが大切」という

味を変えなくても今のシャウエッセンをその層にPRすればいい、焼かなくてもボイル調理のまま醤油をかければ夜も行けるんじゃないか、そもそも朝に食べてもらえているのだからわざわざ夜を狙いに行かなくてもいいのでは――。

こうした声に対し、岡村さんは「それじゃ今以上には広がらないんです」と説得。2030年に売上高1000億という目標の達成に向けて狙うべき市場はどこか。そこにいる人々が求めているものは何か。そのニーズに応える商品はどんなもので、どう訴求すれば刺さるのか。それらを徹底的に調査分析し、すべての提案にファクトをつけ、プロモーション展開までセットで説明した。

確かに、目指す結果からその実現手法や道のりまでを一度に提示すれば説得力は倍増するし、掟破りを含む複数の提案がまとめて通る可能性も高まる。入念な下準備を必要とする実に緻密なプレゼン方法だが、岡村さんはこともなげに「言ってみれば力わざですね」と笑う。

開発チームは何百回も試作を繰り返した

一方で、開発チームにとっても夜味はハードルの高いものだった。「開発を担当した前任者は、夜という喫食シーンに合う味を求めて何百回も試作を繰り返したそうです」と加藤さん。

2019年に電子レンジ調理を解禁した際も、開発チームは何種類もの電子レンジを並べて、ワット数ごとに最適な加熱時間を割り出せるまで100回以上もの実証実験を行った。すべては、独自のおいしさや食感を損なわないようにとの思いからだったという。

「タブーに踏み込むわけですから、変えるんだけれども“らしさ”は残さなくてはいけない。開発としてはそのバランスをとるのがいちばん難しいんです。私も何度か新しい味の開発に挑戦してきましたが、なかなかOKが出ないのでどうしても試作回数が増えてしまう。体力的には大変ですが、それでも疲労より、伝統あるブランドの変化に携われるやりがいのほうが大きいですね」