社内で守られていた“4つの暗黙の掟”
2つの課題を攻略しようと消費者行動をさらに深掘りするうち、やがて自分たちがつくるべき新商品像が浮かび上がってきた。それが「30〜40代男性に夜に食べてもらえるシャウエッセン」。
ならば濃いめの味つけで、フライパンひとつで夕食と一緒に調理できる焼き調理が最適だろうと考えたが、ここに社内で長年守られ続けてきた“4つのタブー”が立ちはだかった。
そのタブーとは、「調理はボイル調理のみ、焼くべからず、切るべからず、味を変えるべからず」。夜味の開発を担当した、加工事業本部 マーケティング統括部 商品開発室 ハムソー商品開発課課長の加藤安太朗さんは「誰が決めたわけでもないのに、いつの間にか暗黙の掟として社内に根づいていた」と語る。
「たとえば味については、他のブランドでは色々なフレーバーを展開していますが、シャウエッセンだけはずっと1つの味のみでした。過去に何度か開発現場が新しい味にチャレンジしたことはあったものの、いずれも『こんなのはシャウエッセンじゃない』ということで承認を得られなかったそうです」
「会議の場がシーンと静まり返った」
もちろんタブーははただの謎ルールではなく、それぞれにちゃんとした意図がある。
「ボイル調理のみ」は、皮に閉じ込めた肉汁の旨みや独自のパリッとした食感へのこだわりから。そのため、シャウエッセンは発売当初から、皮が破れる恐れのある焼き調理に代わってボイル調理を推奨してきた。ウインナーと言えば「焼く」が一般的だった時代に、あえて「ゆでる」スタイルで成功を収めたのだ。
こうした成功体験は「焼くべからず、切るべからず」として社内に浸透し、ロングセラーとなるに従って、長年愛され続けている味を守ろうといつしか「味を変えるべからず」も暗黙のルールになった。
それが初めて破られたのは、誕生から35年が経った2019年。若年層の取り込みを狙って電子レンジ調理を大々的に解禁し、同時に新しいフレーバーとして「ホットチリ」と「チェダー&カマンベール」を発売したのだ(※現在は「パワ辛」「おいちぃず」としてリニューアル)。
消費者の立場からすればポジティブなニュースだが、社内的には鉄の掟をくつがえす大事件。当然、反発も大きかった。
当時はまだ現場にいなかった岡村さんと加藤さんも、先輩たちから「工場長が集まる会議で新味を提案したら場がシーンと静まり返った」、「反対意見が続出して会議が紛糾した」、「新商品発表会でマーケティング責任者がOBに囲まれ問い詰められた」など、数々の修羅場エピソードを伝え聞いている。

