「焼いたことがある」社員が88%もいた
こうして開発された夜味は、そのプロモーション手法もまた大胆だった。焼き調理を訴求するため、「焼くべからず」という社内タブーを逆手にとって、「実は大半の社員が焼いたことがある」と大々的に公表したのだ。
もちろんこれはつくり話ではなく、実際に行った社内アンケートの結果に基づいたものだ。それまでの社内は、シャウエッセンを焼くなど口にするのもはばかられるような雰囲気だったそうだが、無記名でのアンケートをとってみるとなんと社員・役員ともに「焼いたことがある」が88%。社外を対象にした調査より割合が高いという、驚きの結果だった。
この事実をSNSで発信したところ、「焼いちゃいけないなんて知らなかった」といった反応を中心に焼き調理に関する投稿が相次ぎ、斬新なネーミングをネタにした仕掛けとあいまって話題が沸騰。初速売り上げを大きく押し上げた。
「夜味では、今までシャウエッセンがやってこなかったことを全部やってみたんです。結構タブーを侵しちゃってるよなぁと思いながら(笑)。やっぱりタブーって自分の中でも根強くて、CM撮影のときもメンバーと『まさか焼くシーンを撮る日が来るなんて』と言い合っていたぐらいです」(岡村さん)
3年前には「マーケティング統括部」を設置
岡村さん自身、夜味以前は掟を守ってボイル一択だったそう。片や加藤さんは店頭での試食販売担当者が考案したという「時短ボイル」派。フライパンに水50ccとシャウエッセンを入れて水が蒸発するまで加熱する調理方法で、こちらもタブーとはされていないそうだ。
夜味では、会社による組織変更も後押しになった。発売の3年前、日本ハムはそれまで独立していたブランド戦略室、マーケティング室、商品開発室の3つを合体させ、新たに「マーケティング統括部」を設置。これによって部署間の連携のしづらさが解消され、コンセプトの立案からテスト開発、テストマーケティングまでが迅速かつスムーズに回るようになった。
以前の縦割り組織のままだったら、夜味もどこかの部署で却下されてしまい幻に終わっていたかもしれない。岡村さんも「すべての過程がうまいこと回らないといい商品は生まれない。夜味はそこがうまくいった好例」と話す。

