静岡県とリニア工事の交渉を進めてきたJR東海が着工まで「あと一歩」のところまで迫っている。ジャーナリストの小林一哉さんは「あとはリニア工事で生じた環境への影響の『補償』について文書を取りまとめるだけだ。問題は、県内の自治体が『ひかりの増便』という誠意だけでまとまれるかどうかだ」という――。

リニア静岡工区は2026年度中の着工が濃厚に

品川―名古屋間のリニア工事の中で唯一、未着工である南アルプストンネル静岡工区の着工が、2026年度中にも行われる見通しが強くなった。

来年度にはリニア開業の時期が明確化される見込み
筆者撮影
来年度にはリニア開業の時期が明確化される見込み

リニア沿線自治体は、現在「2027年以降」とされる開業時期を明確にするようにJR東海に強く求めている。これに対してJR東海は、静岡工区の着工後にいつ開業できるのかの見通しを示すとしてきた。

「世界最大級の断層帯」を抱える南アルプスのトンネル工事は最難関とされ、静岡工区の工事は着手から完成まで10年以上掛かると見込まれる。

このため品川―名古屋間のリニア部分開業は「2037年以降」とみられていたが、来年度にはようやくリニア開業の正確な時期が明らかにされそうだ。

着工への「関門」だった静岡県の地質構造・水資源、生物多様性の両専門部会も大詰めを迎え、県は懸案とされる28項目の課題を本年度中にすべて承認する見通しである。

「補償の文書」を交わせば障壁はすべてなくなる

これを受けて10月20日、JR東海の丹羽俊介社長が静岡県庁の鈴木康友知事を表敬訪問し、「詰めの交渉」に取り掛かった。具体的には、大井川の中下流域の水利用に影響が生じた場合の「補償」の文書取りまとめに向けて、知事の協力を要請した。

丹羽JR東海社長
筆者撮影
丹羽JR東海社長
静岡県の鈴木康友知事
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静岡県の鈴木康友知事

鈴木知事は「国を含めてしっかりと調整して、まとめていきたい」などと前向きに対応することを明らかにした。

国も一日も早い着工に向けてモニタリング会議を開いているだけに、流域市町長が賛同を得られるような文書取りまとめに協力するのは間違いない。これで静岡工区の着工への障害はすべてなくなる。

工事後の補償問題について、島田市、牧之原市、掛川市など10市町長はこれまで、流域の水利用に影響が出た場合、①請求の期限や機能回復や費用を限度なく負担すること、②立証の責任は利用者ではなく、JR東海にあること、③国の関与を求め、国の指導でJR東海が対応すること――の3点を示している。

この「補償」内容であれば、JR東海にとってハードルは非常に低い。