JR東日本が羽田空港への「アクセス新線」を建設している。2031年開業を見込んでいる。すでに京急線やモノレールが走る中、なぜJRが新線建設に動くのか。ルポライターの昼間たかしさんがアクセス線をめぐるJRの狙いを読み解く――。
JR東海大井車両基地、JR貨物東京貨物ターミナル周辺より東京国際空港(2019年10月13日、東京都品川区)
写真=時事通信フォト
JR東海大井車両基地、JR貨物東京貨物ターミナル周辺より東京国際空港(2019年10月13日、東京都品川区)

なぜ今さらJRが? 羽田アクセス線“参戦”の真意

JR東日本が2031年の開業を目指して羽田空港への「アクセス新線」建設に乗り出した。このニュースに対して、思わず「なぜ今になって?」と感じた読者も少なくないだろう。羽田空港へのアクセスは、これまで京急と東京モノレールの2系統で長らく運用されてきた。JRはなぜ、今さら3番手として乗り込むのか?

1:最終的に目指されるのは、羽田空港から各方面へのアクセス

現在、工事が進められているのは、田町付近から既存の大汐線(現在は休止中)を再活用し、東京貨物ターミナルを経て、最大深度約50mにおよぶシールドトンネルで羽田空港に至るもの。これにより、宇都宮線・高崎線・常磐線など首都圏北部の広域エリアから羽田空港への直通アクセスが可能となり、東京駅からは乗り換えなしで最短約18分という所要時間が実現する。

東京貨物ターミナルの東側で進められる羽田空港アクセス線の電留線整備工事の様子(写真=By 電車(新幹線)でゴー! - Own work, CC0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=146442095)
出典=国土交通省プレスリリースhttps://www.mlit.go.jp/report/press/content/001383168.pdf

JR東日本にとっても、自社の広域ネットワークと羽田を結ぶことで新たな収益源の確保を狙う、長期戦略の中核をなす事業とされている。湾岸部の再開発や沿線不動産の資産価値向上など、空港アクセス改善を契機とした都市構造の変革も期待されており、このプロジェクトは単なる「空港への鉄道新線」を超え、首都圏の交通・経済の再編を促すトリガーとなる可能性を秘めているとされる。

訪日6000万人時代へ…羽田空港の需要はもう限界

2:羽田空港のアクセス路線は足りない

羽田空港アクセス線の整備が本格化する背景には、羽田空港の利用者数が年々増加し、既存のアクセス路線では将来的な需要を捌ききれなくなるという切実な事情がある。

羽田空港は、コロナ禍前からすでに年間8000万人規模の旅客を受け入れており、日本国内で最も利用者数の多い空港である。2020年以降の感染拡大によって一時的に旅客数は落ち込んだものの、その後の需要回復は著しく、2024年には約8590万人に到達。すでにコロナ前の水準を上回っている。

そしてこの需要は、まだ「回復の途中段階」に過ぎない。政府は2030年に訪日外国人旅行者数6000万人を目指すという明確な目標を掲げており、それに応じて首都圏空港、特に羽田空港には今後もさらなる国際線の就航や増便が求められる。国際航空運送協会(IATA)も、世界的な航空旅客数は年率約3%のペースで成長を続けると予測しており、日本の空港も例外ではない。