局地的大雨のニュースが引きも切らない。YouTubeチャンネル・テレ東BIZ『橋本幸治の理系通信』が人気を博している橋本幸治氏は「かつて土が持っていた“雨水を受け入れる力”を現代の舗装に取り戻すすごい技術が日本にはある」という――。

※本稿は、橋本幸治『未来を見通すビジネス教養 日本のすごい先端科学技術』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

人と水との絶え間ない格闘の歴史

古来より、人類の歴史は、時に恵みをもたらし、時に牙をむく「水」との絶え間ない格闘の歴史でした。農業を営み、文明を築き上げる上で、水は不可欠な存在である一方、洪水や干ばつは常に人々の生活を脅かし続けてきました。治水技術の発展は、まさに人類が水との戦いの中で生き残るための知恵の結晶と言えるでしょう。

時代は進み、産業革命以降、人類は目覚ましい発展を遂げます。

都市化が急速に進み、より効率的で快適な生活を求めて、人々は土だった道をコンクリートやアスファルトで舗装していきました。雨が降ってもぬかるむことなく、スムーズな移動が可能になる。それは確かに大きな進歩でした。

しかし、この発展の陰で、新たな問題が深刻化していきます。

特に都市部では、地表の大部分がアスファルトやコンクリートで覆われてしまったため、雨水が地下に浸透しにくくなっています。

洪水
写真=iStock.com/think4photop
※写真はイメージです

雨水を路頭に迷わせる道路舗装

かつて土壌が吸収し、ゆっくりと地下へ浸透させていた雨水は行き場を失い、短時間で排水路や下水道に集中するようになりました。その結果、市街地の排水能力を超えた雨水がマンホールなどから溢れ出す「内水氾濫」が起きやすくなっているのです。事実、東京都内における水害では、河川の氾濫や堤防の決壊による「外水氾濫」ではなく、被害の実に9割近くがこの内水氾濫によるものだといわれています。今や都市は、まるで水を弾く巨大な皿のようになり、ゲリラ豪雨などの局地的な大雨に対して非常に脆弱な姿を露呈しました。

このような状況を打破すべく、かつて土が持っていた「雨水を受け入れる力」を、現代の舗装にもう一度取り戻そうという試みが各地で始まりました。

そんな中で生まれたのが、「ドットコン(Dotcon)」です。この技術を生み出したのは、コンクリート一筋で業界を駆け抜けてきた異色の起業家――中卒から叩き上げで成功を収めた気鋭の社長、小澤辰矢氏です。

ドットコンは、「穴の開いたコンクリート」という非常にシンプルなコンセプトです。「ドット(穴)」で構成された構造によって、雨水が地面にしみ込むための“呼吸孔”を人工的に確保するのです。これまでありそうでなかった、革新的なコンクリートです。

「ドットコンそのものが“浸透施設”だ」――小澤社長はこう語ります。

従来の都市インフラでは、舗装はただの“ふた”であり、雨水処理の主役は別に設けられた排水管や貯留槽でした。

しかしドットコンでは、舗装そのものが貯め、しみ込ませ、ゆっくりと地中へ還す役割を果たします。これによって、下水道や河川への急激な負荷を軽減し、内水氾濫のリスクを抑える効果が期待できます。その意味で、ドットコンは構造物ではなく、都市の水循環を再生する“思想”そのものだと言います。

玄関
ドットコン(画像=PUMP MAN 株式会社より)