明暗が分かれた「2つの抗日映画」
今夏、中国で2本の抗日映画が大きな話題を呼んだ。
1本目は7月25日に公開された「南京写真館」、2本目は9月18日に公開された「731」だ。今年は抗日戦争勝利80年という節目の年であり、中国共産党にとって最大のプロパガンダ(政治宣伝)となるはずの大作だったが、ふたを開けてみると、国民の感想は明暗を分けた。「南京写真館」は「戦争について考えさせられる秀作」という高評価が多かったのに対し、「731」は「低俗で史実と異なる内容」「とんでもない映画」などと酷評されたのだ。
9月3日の抗日戦争勝利記念日の前後に、いずれも鳴り物入りで公開された作品だったが、なぜ、評価は二分されたのか。そして、抗日戦争を描くことで中国共産党の苦難の歴史を再認識し、その正当性を強調するという政府の思惑は、果たして成功したといえるのだろうか。
映画を見た中国人のホンネ
「『南京写真館』を観ました。一言でいうと、予想していたよりずっとよかった。私はこの映画を観ても反日感情はとくに芽生えませんでした。そういう意味では政府の思惑は失敗、ハズレだったといえるかもしれません……。脚本がよくできていると感じました」
8月初旬、上海に住む筆者の中国人の友人(40代)は、筆者にこう語ってくれた。
「南京写真館」(中国語タイトルは「南京照相館」)は日中戦争中の南京大虐殺を描いた作品だ。内容は、南京で旧日本軍は市民を殺害する一方、日中友好を装うために無理やり笑顔の写真を撮っていた。しかし、ある写真館の中国人が、市民が殺害されている写真のネガを見つけ、それを命がけで守ろうとするというものだ。その写真館は実在し、主人公のモデルになった人も実在するが、映画のストーリーや設定はすべてフィクションだ。
前述の友人は「日本軍が行った残虐な行為ももちろん描かれているが、それだけではなく、写真館に隠れていた中国人たちの心情がよく描かれていて、時代考証もしっかりしている。抗日映画ではあるが、ヒューマンドラマでもある」と絶賛した。

