穏健な保守リベラル路線を取るのか

石破茂首相(自民党総裁)が9月7日、首相官邸で記者会見し、退陣を表明した。参院選(7月20日投開票)の与党大敗から50日経って、首相の進退をめぐる国民不在の党内抗争がようやく終息した。臨時総裁選が成立か不成立かを決する予定だった8日の前日夜、首相は、成立時に検討していた解散・総選挙を含め、これ以上の続投を断念したことを明らかにした。

官邸に入る小泉進次郎農水相
写真=時事通信フォト
首相官邸に入る小泉進次郎農林水産相(中央)=10日午後、東京・永田町

「ポスト石破」の総裁選(9月22日告示―10月4日投開票)が事実上スタートした。総裁選が党員・党友票を含めたフルスペックで実施されることから、各種世論調査で支持を集める小泉進次郎農相と高市早苗前経済安全保障相が上位2位に有力視されている。林芳正官房長官、小林鷹之元経済安全保障相、茂木敏充前幹事長も出馬するが、「次」にどうつながるかの戦いになるのではないか。

衆参両院で少数与党となった時点での総裁選は、自民党への信頼をどう回復し、党をどう再建するのか、岩盤保守(右派)層をどう取り戻すのか、穏健な保守リベラル(保守中道)路線を取るのか、自公連立の拡大対象である日本維新の会や国民民主党とどう折衝するのか、という観点からの論戦も必要だ。

「臨時総裁選なら、衆院を解散する」

石破首相は9月7日夜の退陣記者会見で、「米国の関税措置に関する交渉に一つの区切りがついた今こそがしかるべきタイミングだと考え、後進に道を譲る決断をした」と述べ、勇退を演出しようとしたが、実態は異なる。

関係筋によると、首相は参院選で大敗を喫しても、「石破降ろし」が本格化しても、政治空白が続くことも斟酌せずに続投を模索し続けた。臨時総裁選を求める動きが出ると、森山裕幹事長らを通じて議員本人持参や氏名公表といった心理戦を仕掛けた。もっとも、党内基盤がほとんどないにもかかわらず、自ら党内中堅・若手議員に説得の電話をしたり、会食を誘ったりという多数派工作をするでもなかった。そこは「神頼み」だったらしい。

首相は8月末から「臨時総裁選になるなら、衆院を解散して国民に信を問う」と周辺に語り始めた。「大義がない」と指摘されると、「政界再編解散だ」と言い張ったという。

臨時総裁選の成立があり得ると見たのだろう。首相は周辺を通じ、国会閉会中の解散手続きや関連する皇室日程を調べていた。内閣支持率の上昇もあって勝機はあると判断したもので、解散は「本気」だったのである。

首相は、9月2日の両院議員総会で「責任から逃れることなく、しかるべき時にきちんとした決断をする」とも発言していた。参院選大敗の総括が報告され、森山氏が進退伺を申し出ると、鈴木俊一総務会長、小野寺五典政調会長、木原誠二選挙対策委員長が相次いで辞任を表明した。首相にとって、辞意ドミノは意外だったという。徐々に首相包囲網が狭まってくる。