定年を迎えたあと、年収や働き方はどう変化するのか。リクルートワークス研究所研究員の坂本貴志さんとコンサルタントの松雄茂さんとの共著『再雇用という働き方』(PHP新書)より、一部を紹介する――。(第1回)

定年で年収はどれくらい下がるのか

定年を境に収入水準はどの程度変動するのか。リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」を用いて、定年前後の賃金変化を分析したデータを確認していこう。

図表1は、2018年時点で56~60歳であった正規雇用者で、かつ2023年時点で現役時代と同じ会社で働き続けている人について、2023年の賃金水準がどのように変化したのかを分析している。

なお、すべての労働者の定年年齢が60歳であるわけではないため、このデータ分析の対象になった人は必ずしも5年後に定年を経験しているわけではないが、ここではわかりやすくするために2018年時点の年収を「定年前の年収」、2023年時点の年収を「定年後の年収」と表現する。

定年前に正規雇用者であった人の定年後の年収は、約21.1%減少となっている。全体としては定年後におよそ2割程度、年収が下がるというのが相場となっているようだ。

大企業の平均は688万円→498万円

年収の減少幅は、企業規模に応じて変動する。中小企業では、定年後の年収の減少幅が約11.5%と比較的小さい。中堅企業では、定年前の年収が611万円と中小企業よりも高い水準にあるが、定年後は515万円に減少する。減少幅は約15.7%であり、中小企業よりも大きい。

大企業では定年前の年収が688万円と最も高くなっているが、定年後の年収は498万円に減少する。減少幅は約27.6%と最も大きくなる。もちろん大企業でも大幅に減る企業もあれば、あまり減らない企業もあり、企業によってもかなりバラツキがあるだろう。企業によっては現役時代とそれほど収入水準が変わらない企業もあれば、年収1000万円だった人が年収300万円に下がってしまう極端なケースもある。

また、このデータは全職種を対象としているが、年収の変動幅はおそらく仕事の内容によっても変わるだろう。近年の傾向としては、ホワイトカラーで管理職として働いていた人は大きく収入が減少する一方で、建設作業者や医療専門職、生産ラインで働いている人など、現場に近い人手不足の職種で仕事をしている人は定年後もそれほど収入水準が変わらない傾向がある。