※本稿は、西川邦夫『コメ危機の深層』(日経プレミアシリーズ)の一部を再編集したものです。
「小麦戦略」がコメ離れの原因なのか
何がコメに対する需要の減少をもたらしているのか。仮に人口減少を避けがたいものとして、ひとまず脇に置いておくと、焦点は1人当たり消費量ということになる。日本が人口減少社会に転じたのは2009年からであるが、1人当たり消費量の減少はそのずっと前から続いてきた。まずは、食生活の変化に注目して、日本人のコメ離れの要因を検証したい。
コメが上級財から下級財になったことは、日本人の食生活が高度経済成長期以降に大きく変化したことと関連している。よくコメ離れの要因として指摘されるのが、代替食品であるパンや麺類等の小麦製品の消費が増加し、コメを代替したことである。特に、アメリカによる、いわゆる「小麦戦略」が強調されることが多い。アメリカ国内の過剰在庫を解消するためのはけ口として、日本がターゲットにされた。キッチンカーによるパン食の普及や、学校給食に対する小麦の提供によって、日本で新たに小麦製品の市場を開拓したというものである。
コメ消費が小麦によって代替されたとはいえない
筆者は小麦製品によるコメの置き換えは、過大評価するべきではないと考えている。図表1は、コメと小麦の1人1日当たり供給熱量(カロリー)の構成比の推移を示したものである。1960年においてコメが合計に占める割合は48.3%に達していた。つまり、日本人は1日のカロリーの半分をコメから得ていたのである。その後、コメの構成比は低下を続け、2023年には半分以下の21.7%まで低下した。それに対して、小麦の構成比は、上昇はしたが、同期間に10.9%から13.3%への上昇にとどまっている。つまり、日本人のコメ消費が小麦によって代替されたとはいえないのである。
第2次世界大戦前にコメ需要が増えていた時、コメによって置き換えられたのが小麦であった。戦後の小麦に対する需要の増加はパン等の食生活の変化によってもたらされたものなので、確かに戦前とは違う新しい食品としての側面もあるだろう。しかしながら、小麦自体は日本人にとってなじみの深いものであったため、コメを置き換えて需要が増えていくようなものでもなかったのである。


