1カ月前のことは反省できない

ふたつ目の工夫は、会計数値を小さく区切る、「日次決算」です。多くの企業では、いまだに月次で経営数字を集約し、管理が行われています。この場合、月末近くのことはともかく、月初に行った業務については正確な記憶が飛んでいます。月次の実績検討会で上がってくる数字を見て、思い出しながら話そうとしても、現場においてどの活動が問題でどんな改善が必要かということについて意味のある検討はできません。1カ月後に検討するということでは遅すぎるのです。

図を拡大
毎日の反省が改善を定着させる(PIXTA=写真)

しかも、日々の数字は足し算と引き算で相殺されてしまいます。もし1日目はプラス、2日目はマイナス、と交互に続くと、月末にはプラスマイナスゼロになってしまう。本当はプラスの日にはプラスの理由、マイナスの日にはマイナスの理由があったはずですが、「今月の実績は予定通り」ということになると、そこで思考が停止します。数字の背後に隠れた手がかりを探りだして、改善策にたどり着けるのは、極めて高い経営能力を持った人だけです。

一方、アメーバ経営は日次で収支を出します。昨日の結果はイマイチだったということが翌日にはフィードバックされます。まだ生々しい仕事の記憶があるので、原因と思われる部分に対して、何らかの手が試みられます。もちろん、それが正解とは限りません。2日目もマイナス。ではまた新しい試みを行おう。3日目では……。たとえ人並みの能力しか持っていなくても、小さな実験を毎日繰り返すうちに、最後は正しい打ち手にたどり着くでしょう。

小さなPCという工夫に加え、このように会計数値も小さく区切ることで、アメーバ経営では普通の人が小さな力を会社の中で発揮できるようになります。いきなり大きな組織は任せられないかもしれませんが、小さく単純な組織の経営から任せて経験値を高めていきます。このようなロジックで、アメーバ経営は経営トップに代わって経営判断できる人材を育てられるのです。

しかし、アメーバ経営は万能薬ではありません。部分最適のリスクについて述べておきましょう。アメーバ経営では、各リーダーは経営判断を期待されます。リーダー1人ひとりが利益意識を持って「部下たちを食わせてやるんだ」という気概で自部門の利益の最大化を図ろうとします。しかし、その思いが強すぎると、エゴが生まれ、部門間で衝突が生まれやすくなります。衝突を乗り越えるには、「そもそも会社は何のためにあるのか」といった経営の根本的な目的を、社員間で共有する必要があります。