「顧客が必要としていないのなら、無理矢理に売り込むようなことはしない。もし顧客にとって有用なものであるならば、ライバル会社の製品でも提案する。顧客のニーズに応えながら正直に仕事をしていれば、強い信頼関係が生まれ、息の長い取引をしてもらえるようになる」とトッテン社長は語る。
実はトッテン社長の父親は石油掘削で使用するポンプを扱う会社の経営者だった。といっても社員数人の小さな会社で、感謝祭の夜であっても顧客から修理の依頼の電話が入ると、工具を片手に自ら出かけていった。そんなとき、七面鳥のご馳走を目の前に不満そうな顔つきをしていたビル少年に語りかけた父親の言葉が「Customer is God」であった。
いまでは強欲資本主義の“本家”のようにいわれる米国だが、マックス・ヴェーバーが『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』で指摘したような倫理観を身に付けた経営者が一昔前まではごく普通に存在していたのだ。そのように顧客に対して誠実に対応する父親の背中を見て育ったトッテン社長だからこそ、『論語』を素直に理解でき、『武士道』の教えも海綿が水を吸い込むように体得できたはずである。
創業から40年近くが経ち、アシストは年商200億円へ達するまでに育った。現在、社員も800人規模になっている。365日・24時間体制で顧客のニーズに応えるためにも、トッテン社長にとって誰一人欠くことのできない重要なパートナーである。その全社員が「アシスト セブンハート」を記した名刺大に折りたたんだペーパーを肌身離さずに持ち歩いている。
そこには「お客様の声に、耳を傾けよう」「お客様の役に立つ努力をしよう」「誰に対しても、誠実であろう」「トコトン考え続けよう」「『やってみる』の気持ちを大切にしよう」「当たり前のことを、当たり前にしよう」「1+1=∞(無限)」といった7つの行動規範が示されおり、営業の現場などで何か判断に迷うと必ず目を通している。彼らにとって、きっとそれは自らの進むべき道を指し示してくれる“アシスト版武士道”なのだろう。