脳に訴えかける3つのポイント

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トップの高い理想もビジョンも、理解と共感を得なくては絵に描いた餅です。そこでまず重要になるのが「感情」に訴えかけること。そして2点目に、身近な例をあげて「身体性」に結びつけることです。

ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、元日に全社員にメールを送るそうですが、このメールは危機感の共有と連帯感を高めるお手本です。

11年のメールは本題に入るなり、「2011年は日本にとってひどい年でした」と危機感を表明しています。そして政治や経済の問題を指摘し、「15年前に予想したよりも、もっと早いスピードで日本は崩壊に向かっています」とショッキングな文章が続きます。

人間は感情を揺さぶられると、そのあとに続く情報が頭に刻印されます。記憶の中枢である海馬が、感情の中枢である扁桃体と密接に連絡を取りあっているためです。

柳井さんはさらに自分が生まれた炭坑の町がエネルギー転換で寂れた思い出を語ります。ここで例えば「時代の流れは非情である」などと言ったところで、社員には響きません。脳は抽象的な概念を理解することができないからです。柳井さんは自身の体験をあげることで危機感を共有したのです。とくに、「町と学校が突然消えたのです」という文章が効いています。

このように互いの感情を共有することは、集団的な知性を発揮するうえで非常に大切だということは、MITの研究でも明らかになっています。

3つ目のポイントは、自分をさらけ出すことです。トップの人間性が素直に表れたメッセージほど、社員の共感は大きくなります。

松下幸之助が51年にアメリカ視察に出かけ、旅先から社員へ送った16通の手紙にそれはよく表れています。幸之助さんはテレビの普及を目の当たりにした感動と興奮を率直に表現しています。社長・社員という関係を感じさせない人間・松下幸之助のメッセージです。

松下幸之助はシンプルかつストレートにメッセージを伝えました。「水道哲学」もそうです。蛇口をひねれば水が出るように製品があふれたら、貧しい人や泥棒はいなくなるという理想をかかげたところに、福沢諭吉に並ぶ啓蒙家の側面を感じます。だからこそ、松下電器が目指すべき理想像に社員は共感したのです。