カリスマと呼ばれるような経営者は、「こんな会社でありたい」という理想を具体的に示し、社員の挑戦意欲をかき立てることに長けています。
ホンダの創業者である本田宗一郎さんもその1人です。1954年の社内報に載った「宣言」では、マン島TTレースへの挑戦を表明していますが、志の強さと実行への意志には並々ならぬものがあります。
本田さんは「全世界の覇者」「全世界の檜舞台」「全世界最高峰」といったフレーズを用いて、優勝を目標に掲げます。当時の社員にとって相当に高いハードルですが、「年来の着想をもってすれば必ず勝てるという自信が昂然と湧き起り……」と書いています。
人間の成長には「根拠のない自信と、それを裏づける努力が大切だ」というのが私の持論です。本田さんはまさに「根拠のない自信」をもって世界最高峰の舞台に挑みました。実際にホンダがマン島レースに初出場するのは5年後の59年で、61年には2つのクラスで5位まで独占する完全優勝を果たします。トップの理想は、社員が努力を重ねてやっと到達できるレベルがちょうどいいのです。
ソフトバンク社長孫正義さんのプレゼン用スライドにも同様のことが読み取れます。おそらく孫さんは、「5年後にはユーザー数や売り上げを何倍にする」というビジョンが先に浮かぶのでしょう。その思考プロセスが、キャッチやグラフから伝わってきます。
お役所などでよく見るのは、ビジョンがあいまいなデータ積み上げ型の思考法で、スライドには文字や数字がぎっしり詰め込まれています。孫さんとは対照的です。面白いもので、スライドにはその人の頭の中が映し出されてしまうのです。
孫さんのプレゼンは、伝えたいことが山ほどあるのにあえて情報を絞り込み、インパクトを最大限に高めています。この“合脳的”なプレゼンから学ぶべきは、情報を削りに削って絞り込む勇気です。