1回の「出張」で6億円

秋葉原には、神田明神に祀られる大黒さんと恵比寿さんの2柱しか七福神のメンバーがいません。秋葉原周辺には「神田アート七福」という七福神をモチーフとした作品が7か所に置かれているのですが、それは「アート」であり「神仏」ではありません。それでは、福をあやかりたいと願う人たちの「七福神巡り」の対象にはならないのです。

それなら、七福神を秋葉原に勧請(かんじょう)する、つまり、本物の神仏の分霊を秋葉原で新たに祀ればよいのではないかと考えました。しかし、そのためには、膨大な費用が必要になることが分かりました。例えば、2006年、横浜中華街に媽祖(まそ、台湾や中国沿海部で人気が高い海の女神)廟が開廟しました。横浜中華街の新たなシンボルとして、多くの人々が参拝に訪れていますが、この媽祖廟の設置には土地代を含め18億円もの費用がかかっており、地元商店街の皆さんが今もローンの支払いを続けています。秋葉原で七福神のメンバーをそろえるために残り5柱の神仏を勧請するには、横浜中華街の人々のように、よほどの覚悟と団結がなければ、到底、真似はできそうにありません。

そこで、江戸時代に流行した「出開帳(でかいちょう)」のことを思い出しました。出開帳とは、普段は拝むことができない遠方の寺院の本尊を期間限定で招いて拝観できるようにするイベントです。例えば、京都の清涼寺の釈迦如来立像は、出開帳で10回も江戸に「出張」しています。1回の出開帳で6千両(現在の約6億円)の収益を得たとの記録もあります。大勢の江戸の民衆が熱狂して、出開帳の仏像に賽銭を投げつけたので、今でもその時にできたたくさんの細かい傷が、この仏像に残っています。

地方の七福神を秋葉原に招いて出開帳を行えば、秋葉原でも七福神巡りが実現できるはずです。それに、七福神を祀る寺社を秋葉原で管理する必要もないわけですから、秋葉原の人たちの負担も少なくなるし、秋葉原が得意とするいろんなイベントと組み合わせれば、江戸時代の出開帳に負けないくらい、おもしろいイベントを創りだせるかもしれません。

もし、湘南の江ノ島や琵琶湖の竹生島から弁天さまが出開帳に合わせて秋葉原出張用の格好で来てくれたら、出身地の江の島や琵琶湖の情報も合わせて秋葉原から発信でき、地方の広報活動の一助にもなるでしょう。秋葉原が将来、世界中の福の神を招いて本物の「聖地」になっていればと思いながら、秋葉原での出開帳の実現に向けて、早速、秋葉原に関わるさまざまな人たちに協働を呼び掛けているところです。

関連記事
「祭りは対立を解くチャンス」
「『打ち水』が冷まそうとしたもの」
「ものづくりを支える電気街の底力」
今の日本で「フツー」とは一体何なのか
「コスプレをビジネスにするには(前編)」